花き研究所

橙色

日本に自生している野生植物で最も多い花色は白色と黄色で、それぞれ約3割を占め、次いで青、青紫、赤紫が約2割を占めます。赤色や橙色の花色を持つ植物はほんのわずかで、ツバキ(赤色)、オニユリ(橙色)、センノウ(橙色)など数えるほどしかありません。

一方、花屋で売られている花を眺めると様々な色の花が売られています。その多くは育種によって野生種にはないものが作られた結果です。

赤色や橙色の花色を持つ野生種の花
赤色や橙色の花色を持つ野生種の花
左:ヤブツバキ 中央:マツモトセンノウ 右:コオニユリ

アントシアニンとカロテノイドによる橙色花色

栽培ギク品種には白色や黄色の他に赤紫色や橙色の花色がありますが、野生のキク属には橙色のものはありません。アントシアニンにより赤紫の花色をしたキクとカロテノイドにより黄色の花色をしたキクを交雑し、両方の色素を持ち橙色をしたキクが作られたのです。(成果情報1)

黄色および橙色花色のキク品種(左:ダークドラマティック 右:サニーオレンジ)
黄色および橙色花色のキク品種(左:ダークドラマティック 右:サニーオレンジ)
「サニーオレンジ」には黄色カロテノイドが、「ダークドラマティック」には黄色カロテノイドの他にアントシアニンが含まれています。

キク以外にもバラ、ビオラの橙色はアントシアニンとカロテノイドが合わさって発現しています。やはりキクと同じように橙色の花弁をもつ野生種は無く、交雑により両方の色素を持つように育種されました。
野生植物の中で、アントシアニンとカロテノイドの両方の色素を花弁に蓄積する植物は、ほとんどありません。花の色は昆虫や鳥などの花粉を運ぶ動物(ポリネーター)を呼び寄せるために進化したものですが、ポリネーターを呼ぶためにはどれか一種類の色素があれば十分で、複数の色素を蓄えるメリットが無いからだと考えられます。

橙色花色の花 左:バラ品種「ベイブ」 右:ビオラ品種「フル-ナオレンジ」
橙色花色の花
左:バラ品種「ベイブ」 右:ビオラ品種「フル-ナオレンジ」

フラボノイドによる橙色花色

フラボノイドの生合成経路
フラボノイドの生合成経路 <拡大表示>

カーネーションの黄色の花はカルコンにより、橙色の花はカルコンとアントシアニンの 組み合わせにより発色しています。カルコンはアントシアニン生合成系の中間産物で、カルコン異性化酵素(CHI)の働きにより一旦無色のナリンゲニンに変 換され、さらにフラボノイド水酸化酵素やジヒドロフラボノール還元酵素(DFR)、アントシアニジン合成酵素(ANS)の働きによりアントシアニンが合成 されます。

アントシアニン生合成酵素の不活性化とカーネーション花色
アントシアニン生合成酵素の不活性化と
カーネーション花色
<拡大表示>

カーネーションの黄花や橙花にカルコンが貯まっているのは、CHI遺伝子の発現が低く抑えられているためです。この抑制は完全ではないので一部のカルコンはナリンゲニンに変換されます。黄色の花ではDFR遺伝子の発現も抑制されているためナリンゲニンからアントシアニンが合成されません。一方、橙色の花ではDFRが正常に働いているので、わずかながらアントシアニンが合成され、カルコンの黄色とアントシアニンの赤色が混ざった橙色になります。CHI遺伝子やDFR遺伝子の発現が抑制されるのは、これらの遺伝子に「トランスポゾン(※1)」が挿入されているためです。カーネーションの野生種には、花弁にカルコンを貯めるものはありませんが、育種の過程でCHIにトランスポゾンが入ったものが選抜されたと考えられます。

※1) トランスポゾン
「動く遺伝子」。遺伝子は普通決まった位置にありますが、トランスポゾンはいろいろなところに動くことが出来ます。色素を合成する遺伝子の途中に、トランスポゾンが割り込んで入ると、その遺伝子が2つの断片に分断されて働かなくなります。

カロテノイドによる橙色花色

一種類の色素だけで橙色を発色している植物もあります。
マリーゴールドはカロテノイドを多量に蓄積することで橙色を作っています。マリーゴールドの花弁に含まれるカロテノイドはルテインという黄色いカロテノイドですが、黄色と橙色の違いはルテインの量の違いで、橙色の花弁は黄色の花弁の何十倍ものルテインを含んでいます(成果情報1)。黄色花弁と橙色花弁でカロテノイド生合成酵素遺伝子の発現を比較すると、橙色花弁の方が全体的に発現量が高く、特に生合成の鍵酵素と考えられているフィトエン合成酵素(PSY)の発現量が高いことが報告されています。

カロテノイド量の違いによって花弁の色が異なるマリーゴールド品種
カロテノイド量の違いによって花弁の色が異なるマリーゴールド品種

キンセンカには黄色の品種と橙色の品種があります。どちらもカロテノイドによって発色しています。
キンセンカの場合、黄色と橙色花弁に含まれるカロテノイドの量は同じですが、橙色の花弁には黄色いカロテノイドの他に赤色のカロテノイド(リコペン類)が含まれています(成果情報1成果情報2)。

黄色および橙色花色のキンセンカ品種(左:アリスイエロー 右:アリスオレンジ)
黄色および橙色花色のキンセンカ品種(左:アリスイエロー 右:アリスオレンジ)
「アリスイエロー」には黄色のカロテノイドが、「アリスオレンジ」には黄色カロテノイドの他に赤色カロテノイドが含まれています。

ユリの場合も橙色花弁と黄色花弁ではカロテノイドの組成が異なります。
黄色花弁はアンテラキサンチンやビオラキサンチンなど黄色のカロテノイドだけですが、橙色花弁にはカプサンチンと呼ばれる赤色のカロテノイドが含まれています。
カプサンチンはトウガラシに含まれる赤色カロテノイドで、辛みの主成分です。κ環と呼ばれる特殊な環構造を持っています。カプサンチンカプソルビン合成酵素の働きで、アンテラキサンチンから合成されます。花弁にカプサンチンを蓄積する例はユリ以外に報告されていません。

赤色および黄色花色のユリ品種(左:サイジャ 右:コネチカットキング) カプサンチン
赤色および黄色花色のユリ品種(左:サイジャ 右:コネチカットキング)
「コネチカットキング」には黄色カロテノイドが、「サイジャ」には黄色カロテノイドの他に赤色カロテノイドのカプサンチンが含まれています。

関連する成果情報

専門家向け参考文献

  • キク科植物:Kishimoto, S., Sumitomo, K., Yagi, M., Nakayama, M., Ohmiya, A. (2007) Three routes to orange petal color via carotenoid components in 9 Compositae species. Journal of the Japanese Society for Horticultural Science 76, 250-257.
  • キク科植物:Kishimoto, S., Ohmiya, A. (2009) Studies on carotenoids in the petals of Compositae plants. J. Japan. Soc. Hort. Sci.78, 263-272.
  • マリーゴールド:Moehs, C.P., Tian, L., Osteryoung, K.W. and DellaPenna, D. (2001) Analysis of carotenoid biosynthetic gene expression during marigold petal development. Plant Mol. Biol. 45, 281–293.
  • キンセンカ:Kishimoto, S., Maoka, T., Sumitomo, K., Ohmiya, A. (2005) Analysis of carotenoid composition in petals of calendula (Calendula officinalis L.). Biosci. Biotechnol. Biochem. 69, 2122–2128.
  • ユリ:Yamagishi, M., Kishimoto, S., Nakayama, M. (2009) Carotenoid composition and changes in expression of carotenoid biosynthetic genes in tepals of Asiatic hybrid lily. Plant Breeding, doi:10.1111/j.1439-0523.2009.01656.x
  • カーネーション:Itoh, Y., Higeta, D., Suzuki, A., Yoshida, H., Ozeki, Y. (2002) Excision of transposable elements from the chalcone isomerase and dihydroflavonol 4-reductase genes may contribute to the variegation of the yellow-flowered carnation (Dianthus caryophyllus). Plant Cell Physiol. 43, 578–-585.
  • カーネーション:伊藤佳央ら (2004)花の模様は遺伝子のしわざだった! 化学,59:40-43.

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