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2.網走(北海道)

少雨・少霧が支える日本最北の畑作地帯

 <1984年6月6日観測画像>

画像は,オホーツク海に面する斜里平野を中心に撮し出している。斜里平野は東は知床半島に連なる山々で限られている。この画像には海別岳,斜里岳がとらえられている。南側に目を移すと,屈斜路湖の一部が撮し出されている。この湖の北縁には屈斜路カルデラに寄生する藻琴山があり,さらに北側には緩やかな斜面が広がっている。この斜面は屈斜路カルデラが誕生したときの火砕流で形成されたものである。そして,西は網走湖と能取岬で限られている。網走湖とオホーツク海は網走川で結ばれており,その河口にこの地域の中心である網走市が位置している。オホーツク海沿岸には海岸に発達した砂州でせき止められた涛沸湖などのラグーンが点々と見られる。

気候の特色は日本で最も少ない年降水量(800〜900mm)である。しかし,太平洋岸の根釧地方のように農耕期に濃霧に覆われることなく,晴天の日が多いため,農耕に適し多彩な作物が栽培されている。これに対し,冬季は海岸まで流氷に覆われるとともに,積雪が少ないために気温も低い。

この地域は斜網地域と呼ばれ,専業農家を中心にテンサイ,バレイショ,ムギ類を中心に機械化された生産性の高い農業が展開され,網走支庁全体の農業粗生産額の約50%を占めている。コムギ,バレイショ,テンサイの栽培面積・収穫量ともに全道の25〜40%を占めている。そして,労働生産性・土地生産性ともに全道の平均を上回っている。

このような高い生産性を支えているのは,恵まれた地形・土壌条件である。地形的には,低平な斜里平野やその周囲の緩やかな台地,緩斜面が広く分布している。また,土壌は屈斜路火砕流を基盤に雌阿寒岳や摩周岳から噴出された火山噴出物を母材とした火山灰土壌で保肥力も大きく,生産力も高い。

画像では,火山灰土壌である耕地の部分は白っぽく撮し出されている。斜里平野の海岸沿いや河道沿いに,やや赤っぽい部分が判読できるが,これは砂丘や河道と段丘にはさまれた低湿地で泥炭や未熟土壌が発達しているためである。また,藻琴山から網走川にかけてはさらに赤い。これは同じ火山灰土壌であるが,白い部分と比較してより高い段丘面に分布しており,土壌の発達の程度が異なっているのであろう。さらに,斜里平野に大きな区画が認められる。確かに,この地域では大規模な畑作が行なわれているが,これは耕地の区画ではなく防風林である。

オホーツク海岸は冬季は流氷で埋め尽くされ,白銀の世界となる。初夏は,涛沸湖北側の浜小清水付近の原生花園を中心に,ハマナス,エゾキスゲ,エゾスカシユリなどが咲きみだれ,湖畔にはヒオウギアヤメが一面に咲く。また,涛沸湖は渡り鳥の中継地として知られている。4〜5月と10〜11月が渡来のピークで,オナガガモ,ヒドリガモ,オカヨシガモ,オオハクチョウが代表種である。このように美しい自然にも恵まれるこの地域は春夏秋冬を通して多くの観光客の足を誘っている。

今川俊明(農業環境技術研究所)

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