農業環境技術研究所 > データベース・画像 > 宇宙から見た日本の農業

7.石狩低地帯(北海道)

泥炭地と粗粒火山灰地の農業

 <1987年6月22日観測画像>

画像は,札幌と苫小牧を結ぶ石狩低地帯の中央部を捉えたものである。移植後約1カ月の水田の水面が黒く撮り,区画整理のすすんだ水田が整然と広がる様子が見てとれる。

北海道の農業生産に占める米の地位は,転作率が5割にも及ぶ厳しい生産調整で,昭和40年の40%から平成元年には18%に低下した。しかし,収穫量の全国シェアは7.6%と依然として1,2位を争う位置にある。平成元年の収量は526キロ/10アールと全国平均を6%も上回り,10アール当りの生産費は13万7千円で都府県より約23%少ない。一方,安くておいしい米を提供するために,「きらら397」に代表される良食味品種の開発・作付が急ピッチで進んでいる。

本道稲作の中核をなす石狩川中・下流の水田地帯は,流域の治水,後背湿地の3万9千ヘクタールにおよぶ泥炭地の開発でつくられたものである。画像中の夕張川・千歳川も昭和の初めまでは原始河川に近く,洪水が絶えなかった。しかし,戦後の両河川の改修により,治水と周辺低地の耕地化が進められてきた。旧夕張川の曲がりくねった流路にかつての暴れ川の面影を見ることができる。現在では,さらに,抜本的な対策として千歳川の水を太平洋に導く千歳川放水路の建設が検討されている。

水田地帯の中を縦横に延びる緑の線は防風林である。6月にオホーツク海の冷たい偏東風の通路となるこの地帯では防風林の役割が重要である。近年では,防風網も積極的に設置されている。また初期生育促進技術として,側条施肥・成苗移植方式の導入も進んでいる。

水田の間には転換畑が見える。やや濃い緑色は秋播小麦,ピンク色はまだ裸地状態の畑である。

石狩川流域の泥炭地では,平坦で水供給が豊富なこと,地場消費地に近い利点を生かして軟弱野菜・葉茎菜の栽培がさかんである。

この地域に泥炭土と並んで広く分布する細粒・強粘質な土壌の場合,水田転換の問題はやや深刻である。沖積土の比較的条件が良い部分はタマネギ畑として定着しているが,一般的に砕土性が悪く発芽が困難で,湿害に加えて干害も受けやすく,畑地化には長い期間を要する。

画像の下半分,千歳・追分より南の地帯は樽前山を噴出源とする粗粒火山灰に厚く覆われている。未風化で腐植・粘土に乏しく,「黒ボク土」の概念からは,かけはなれた北海道の特徴的土壌の一つである。この粗粒火山灰地では酪農・畑作が主であるが,農地としての利用率は低く,太平洋に面した勇払原野は湿地で気候も冷涼なためほとんど未開発の状態で残されている。

粗粒火山灰の農地利用にあたっては保肥力・保水性が乏しいことが問題となる。一方,集約的な養水分の管理が可能な園芸においては透水・通気性の良さが長所となり,この土壌条件を産地形成に生かした好例を夕張メロンに見ることができる。また掘り取りが容易なことから根菜類・ナガイモ等も栽培されている。

画像中の千歳空港は平成4年に新ターミナルビルが完成し,国際貨物基地を目指して歩み始めた。空港の存在はこの地域へ農業研究施設を誘致する一つの鍵となっており,今後地域農業の将来にもますます大きくかかわってくることになろう。

小川茂男(北海道農業試験場)
志賀弘行(北海道立中央農業試験場)

目次ページへ 前のページヘ 次のページへ