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10.十和田(青森)

ヤマセに挑戦する青森南部地方の農業

 <1985年6月16日観測画像>

青森県の気候は冷涼で,短い夏と,低温で長い冬が特色である。しかし,山脈,半島,陸奥湾などの複雑な地形や海流の関係で,津軽半島と県南地方では,気候はかなり異なっている。すなわち,冬季は,大陸高気圧の影響で西〜北西の季節風が卓越するため,津軽半島は天候不良で多雪となるが,南部地方は冷え込みが厳しく,晴天の日が多い。また南部地方では,晩春から夏にかけてオホーツク海高気圧からの冷たい偏東風(通称ヤマセ)が吹くことが多い。特に高気圧の勢力が強く,梅雨前線の北上が遅れる年は,曇りで気温の上がらない日が続き,冷害に見舞われる。しかし津軽地方は,このヤマセが山脈によって遮られるので,天気に恵まれる。

さて画像は,しばしばヤマセに襲われる南部地方の6月中旬の様子を示している。(この画像が撮られた1985年は冷害年ではなかった)。画像中で赤紫色の部分は市街地もしくは裸地である。十和田市の南を流れる奥入瀬川の中・下流域を中心に濃紺色の部分が水田である。奥入瀬川の南側は丘陵地の占める割合が多くなり,これに伴い水田地帯はますます細く狭くなり,相板川,馬淵川など流路に沿って帯状に分布している。しかし6月のこの時期,若い稲はまだ水田面を覆うに至っていない。

この地方をしばしば襲う冷害(主原因はヤマセであるが,大陸からの寒気の流入など他の原因も含む)は,明治19年〜昭和62年の間に代表的なものだけでも14回に及ぶ。これに対して,第一に冷害に強い稲の品種改良が積極的に進められ効果をもたらした。最近では,防風林に代わった防風ネットの設置,栽培様式の工夫など,たゆまない努力が続けられている。現在青森県では,「アキヒカリ」が80%近く作付けられているが,ヤマセの危険地域では極早生品種を栽培し,その来襲に備えている。

画像の左下に区画がひときわ明瞭な部分は奥羽種畜牧場である。総面積1,400ヘクタール余のこの牧場には約500ヘクタールの飼料畑,280ヘクタールの牧草放牧地,170ヘクタールの野草放牧地があり,毎年1,000頭以上の和牛を飼養している。農林水産省には全国14カ所にこのような種畜牧場があり,それぞれの地域に直結した家畜の改良事業を行っている。この奥羽種畜牧場では,日本短角種や黒毛和種といった肉用和牛の改良および配布を通じて地域の肉用牛生産振興に寄与している。

画像の下半分の黄緑色の部分は森林地帯で,6月のこの時期でも青白く冠雪した八甲田山や,濃紺色の十和田湖を抱いた奥羽山脈が連なる。八甲田山の亜高山帯域には,主としてアオモリトドマツからなる針葉樹林が見られ,周辺の大部分はブナ林となっている。画像上では冠雪地の周辺でやや黒ずんで見える部分がアオモリトドマツ帯で,黄緑色がブナ帯である。ブナ林の中のやや低い所の伐採跡地には,ミズナラの二次林が分布している。山岳地帯中部から丘陵地にかけては,自然環境を活かした放牧が昔から行われ,ブナ林皆伐後のススキ草地,さらに放牧で成立したシバ草地の利用,ブナ林での林間放牧と,夏山冬里方式の牛馬の育成が盛んであった。八甲田山と奥羽種畜牧場の間に紫色の斑点のある灰色を呈した大きな方形状の開発地が見えるが,これが田代平の牧野である。しかしここは現在ではほとんど畜産としては利用されておらず,むしろ観光地として収益をあげている。

秋山 侃(農業環境技術研究所)
冨士田裕子(北海道大学農学部)

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