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15.横手(秋田)

豪雪と生きる肥沃な米どころ

 <1985年6月16日観測画像>

画像は秋田県南東部の横手盆地を中心とした県内でも土地生産性が最も高い米どころを撮しだしている。

奥羽山脈と出羽山地に挟まれた平坦で肥沃な横手盆地は,南北約60キロメートル,東西最大15キロメートルあり,西奥羽では最も大きい盆地である。内陸部に位置しているので,夏は30度を越し,冬の平均最低気温は零下4度にもなる。そして,積雪が早く積雪が2メートルに達し,雪解けが遅いため,水田裏作が阻まれている。しかし,人々は「大雪にけかつ(凶作)なし」と言っている。奥羽山脈は太平洋からのヤマセをさえぎり,冷害からこの地を守り,作物の生育によい環境をもたらしている。

盆地の西縁を雄物川が南から北に流れ,大曲市で北から流れてきた玉川と合流し,西北に流れを変えて日本海に向かっているのが見える。この二つの川に流れ込む支流と,それから分かれる多くの枝堰や潅水路が網の目のようにいき渡り,地域の農業や人々の生活に恵みを与えてきた。

画像には,流域に田植後間もない水田が黒く広がっている。土壌は細粒グライ土壌が主であるが,横手市西方の盆地中央には低位泥炭土壌,黒泥土壌が大面積を占め,やや赤味をおびて見える。

東部の扇状地群は古くから開拓の歴史があるが,戦前・戦後に田沢疎水事業として本格的に開発され,今は水田として利用されている。この地帯は淡色黒ボク土壌に覆われている。盆地周縁の丘陵地は赤色,褐色森林土壌であって,リンゴ,スイカ,ホップなどの作物の導入が進んできている。横手市以南は平賀リンゴの生産地で高級品の大部分は東京などの大都市に出荷される。

盆地内の人口は,約38万人で県内人口の3割を占め,秋田平野より多いが,中心都市はなく湯沢,横手,大曲の3市が鼎立している。これらの市はいずれも4万人程度で産業基盤としてのスケールは必ずしも大きくない。そのため,かつては冬季農閑期に京浜方面への出稼ぎ者が多かったことが,この地域の特徴であった。しかし,平成元年には昭和45年のピーク時の1/3以下になっている。

戦後の寒冷地稲作技術の進歩により,米の反収は600キログラムにも達し,75年以降は全国有数の米どころになっている。そして,秋田県が生んだ「あきたこまち」は良質米として評判が高く,作付面積の約60%を占めるに至った。しかしながら,農家の悩みがなくなったわけではなく,近年は農業後継者の配偶者問題が地域農業の進行を図るうえでも重要な課題となっている。

いま秋田県では,21世紀の望ましい秋田をつくるため「秋田の特性を生かしたたくましい農業・水産業の展開」と活力とやすらぎに満ちた農村・漁村社会の形成」を目指している。

平鹿町の婦人たちがつくる秋田県の優良土産品「秋田の田舎漬」は農村加工業の成功例であり,明日への展開を象徴する芽の一つと言えよう。

福原道一(農業環境技術研究所)

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