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28.神奈川

かながわ農業と土壌診断システム

 <1985年1月23日観測画像>

画像は1月末の神奈川県のほぼ全容をとらえている。西(画像では下部)の丹沢・箱根の山地から,中央部の低地,東部の丘陵と,さらに相模湾と東京湾を分ける三浦半島が見える。

神奈川県は,面積は2,403平方キロと全国で5番目に狭いが,首都圏にあって東京,大阪に次ぐ多くの人口をかかえ,最も都市化の進んだ地域のひとつである。

神奈川県の農用地の面積割合は12%で,宅地の半分である。農業就業人口比率は1.6%,農業の県内総生産に占める割合は0.5%と低い。1戸当り耕地面積も0.6ヘクタールと全国の半分にすぎない。しかし経営規模は小さいながらも,高い技術を生かし,10アール当り土地生産性は15万円と全国のトップレベルにある。また,野菜と畜産が農業生産の中心となっており,野菜(45%,347万人分),牛乳(47%,361万人分)の生鮮食料の県内自給力を高い水準で維持している。

農作物の作付面積は31,400ヘクタール(昭和62年度)で,水田22%に対して普通畑54%,樹園地23%となっており,野菜・果樹などの作付比率が高いのが特徴である。

野菜の作付面積は13千ヘクタールで,温暖な気候に恵まれていることと大消費地に近い利点を生かし,多くの種類が栽培されている。特に温室やビニールハウスを利用したトマトやキュウリ,三浦半島は冬・春作のキャベツやダイコン,都市周辺のホウレンソウ,コマツナなどの軟弱野菜の生産量が多い。県西部の山地はミカンが2,700ヘクタールと主産地を形成している。県農地面積の約30%を占める市街化区域内の農地は,新鮮な野菜・果実の供給や緑地空間の提供など重要な役割を果している。

花では全国生産額50%以上をもつスィトピーをはじめ,バラやカーネーション,シクラメン,パンジー,デージー,観葉植物などの施設による収益性の高い栽培がさかんである。

神奈川農業の特徴は,さきに述べたように,高い土地生産性と生鮮食料自給力にある。このような農業生産の安定は「土つくり」が基本である。「土つくり」のためには,土壌改良や有機物の施用とともに施肥の適正管理が重要である。その手段として農業改良普及所をはじめ市・農協などの団体による土壌診断が実施されている。

これらの結果は土壌診断情報システム化の一環としてパソコンによるデータベース化が進んでいる。現在,県内の土壌診断を実施している機関全てがこの診断システムを利用しているため,情報が年々蓄積されている。その情報量は年間2万点に達し,1988年度までに8万点を越える情報がデータベースとして蓄積されている。これは県内の農耕地が3万ヘクタール程度であることを考えると,農耕地の化学性の実態を把握するうえで,極めて密度の高い重要な土壌情報であることがわかる。

この土壌診断システムの最終目標は,総合的な栽培管理システムに発展させることである。土壌には資源と生産基盤の二つの機能があるが,ここでは「生産基盤としての土壌」という立場から直接農業者に役に立つことを意図してシステムが開発されている。

福原道一(農業環境技術研究所)
舩橋秀登(神奈川県農業総合研究所)

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