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35.遠州(静岡)

温暖な気候を利用した施設園芸と茶業

 <1987年9月1日観測画像>

静岡県はわが国のほぼ中央に位置し,海に臨む平坦地から,富士山,南アルプスなどの山岳地帯まで標高差が大きく変化に富んでいる。

気候は年平均気温が15〜17℃,年間降水量が1,900〜2,400ミリで,冬期は日照時間が多く温暖であるため多種多様な農産物が生産されている。

総面積88.0万ヘクタールのうち耕地面積は88千ヘクタールで,田30千ヘクタール,普通畑18千ヘクタール,樹園地38千ヘクタール,牧草地2千ヘクタールなどとして利用されているが,耕地割合は,11.4%と全国平均を下回っており,年々減少傾向にある。農業粗生産額は約3,260億円で,内訳はそれぞれ野菜類27.4%,茶22.9%,畜産19.3%,米8.7%,果樹類9.0%(ミカン6.8%),花き類7.7%,その他5.0%となっており,全国と比較すると,米や畜産の比率が低く茶などの工芸作物と野菜・花きなどの園芸作物の比率が高いことが特色となっている。

さて,画像は,天竜川を中心に,大井川以西の県西部地域を撮している。

画像には,沖積平野の中心部を,わが国の大動脈である東名高速道路が海岸線と平行に東西に横断している状況が示されている。

これらの大動脈が横切る平野部は,標高差の大きい天竜川及び大井川の下流域に,細粒質〜礫質の灰色低地土地帯を形成している。天竜川の右岸及び左岸には,第四紀洪積世の礫質赤・黄色土を主体とした三方原台地と磐田原台地が,大井川右岸には礫質黄色土の牧の原台地が,それぞれ北部山岳地帯へと延びている。また,遠州灘の海岸線には,幅約2キロメートルの砂丘未熟土地帯が延々愛知県まで延びており,この海岸線から台地までの地帯に施設園芸を中心とした本県農業が発達している。

作目としては,施設では生産額全国1位の温室メロンをはじめ,果菜類ではイチゴ,トマト,ハウスメロンなどが,葉菜類ではセルリー,レタス,パセリ,中国野菜,葉ネギなどが生産されており,また,花き類ではキクのほかバラ,宿根カスミソウ,鉢物類などが生産されている。露地作物としては,水稲のほか,ダイコン,サツマイモ,スイカ,バレイショ,シロネギ,エビイモ,タマネギ,キクなどが栽培されているが,近年,これら露地作物はわずかながら減少傾向にある。枝物花きは,浜名湖周辺及び山岳地帯へ続く丘陵地で,コデマリなど多数の品目を生産しており,全国的にも名高い産地を形成している。

生産額全国1位を誇る茶は,牧の原台地,磐田原台地,小笠山一帯,大井川上流部などを中心に広がり,近年では大面積の茶園の造成も行われている。

海岸線から20〜30キロメートル以北の丘陵地から南アルプスへ延びる山岳地帯の地質は,ほぼ天竜川を境にした断層により,東側の泥岩,砂岩,礫岩からなる地帯と西側の深成岩及び変成岩を主体とした地帯に二分されているが,この地帯は本県林業の中心であり,スギ,ヒノキなどを中心とした人工樹林地が広がっている。また,この針葉樹林帯の所々にはシイやアラカシなどの常緑広葉樹林が混在して,われわれに一年中美しい緑を楽しませてくれる。

石上 清(静岡県農業試験場)

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