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55.佐賀平野

佐賀平野のクリーク農業と有明海の干拓

 <1986年5月12日観測画像>

阿蘇・九重の水を集めて有明海に注ぐ筑後川は,近世になっても頻繁に洪水を繰り返してきた。このため有明海に大量の土砂が流出し,推定では現在でも1年に10メートルの割合で陸化が進んでいるといわれる。また,有明海の潮汐は干満の差が大きく筑後川口で5メートルに達し,満潮時には各河川から供給され海底に沈積した泥土が,浮泥となって海岸に付着・堆積する。そのため,干潟は年平均7センチメートルの割合で上昇し,干拓の進んだ現在でも最大幅6キロメートルに及ぶ干潟が形成されている。

一方,この地方の気候は温暖で,年平均気温は16℃,降水量も春から秋にかけて豊富で,年間1,890ミリとなっている。

佐賀平野はわが国有数の穀倉地帯で,米作を中心に麦,野菜等に高い生産をあげている。佐賀県の米作は明治時代から一貫して全国上位を維持している。このような高い土地生産性をもたらした要因としては,土壌が肥沃であったことのほかに,施肥技術の進歩,改良品種の導入,病虫害の防除などがあげられる。この中でも,特に大正時代末期に人力から動力の揚水ポンプが導入されたことにより,田植期を遅らせることが可能となり,三化めい虫の被害を克服したことが世に言う「佐賀段階」へと飛躍する引き金となった。

さて画像は5月中旬の佐賀平野を撮している。佐賀平野の農業の特徴的景観はクリークであろう。画像上でも全域に発達したクリーク網が認められる。平坦部のうち,川に近い沖積平野と干拓地の多くは肥沃な水田である。しかし耕地利用率が高い佐賀平野では,5月中旬の水田には二条オオムギなど冬作のムギ類が生育している。一方,減反政策の結果,米作ができなくなった干拓地は,レンコンやタマネギ,ダイズ,牧草などが栽培されている。例えば佐賀市の真南有明海につき出した国造干拓地の中に,やや黄色く広がる部分は牧草地であるが,この辺りは数年のうちに飛行場に変わる運命にあるという。

画像上,主に左側の有明干拓地に点々と散らばる小さな方形がハス池であるが,春のこの時期には水面が優占している。ハスの分布とほとんど同じ地帯から,更にやや山手にかけて紫色の点としてタマネギ畑が散見される。同じ紫色でも平野部全域の郊外に多数認められる大きな四角い場所は,土地改良事業により圃場整備を進めている地点である。この紫色の圃場の中で白っぽく見える部分は,すでに作付準備のため耕起され,表面が乾燥した状態になっていると推定される。ちなみに,佐賀県果樹試験場の気象表によれば画像撮影日の前1週間は晴天か曇天が続き,5月6日に16.5ミリの降雨が記録されているにすぎない。

一方,画像左側の山間部にはミカンが栽培されている。特に画像左下の経ヶ岳,多良岳の山ろくの斜面に沿って,尾根上に薄緑色の帯が見えるのがミカン園である。同じミカン園でも北側の山地のふもと,当時建設中の高速道路沿いに赤茶色に見える赤坂地区は数年前に大規模にミカン樹を更新し,幼木が育っている地点である。その他,山中に黒く見える地点はわずかに残された照葉樹の原生林であろう。

秋山 侃(農業環境技術研究所)

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