独立行政法人農業環境技術研究所中期目標

独立行政法人農業環境技術研究所(以下「研究所」という。)は、昭和58年に農林水産省農業技術研究所を改組して創設された農林水産省農業環境技術研究所を母体とし、自然循環機能等農業と環境の関連性の解明に関する基礎的な研究を担う特定独立行政法人として平成13年4月1日に設立された。

研究所は、食料・農業・農村基本法(平成11年法律第106号)、その理念や施策の基本方向を具体的に示した食料・農業・農村基本計画(平成12年3月24日閣議決定)及び「農林水産研究基本目標」(平成11年11月1日農林水産技術会議決定)に基づき、平成13年4月の設立に伴って策定された第1期中期目標に示された研究開発を推進してきた。特に、農産物の放射能・ダイオキシン汚染や地球環境変動等の農業環境に関する様々な問題の解決に貢献し、行政機関及びIPCC(気候変動に関する政府間パネル)等の国際機関から高い評価を得てきた。

今日、温暖化等の地球環境問題への社会的関心はますます高まっており、農業生産を支える環境にも及ぶところとなっている。さらに、国の科学技術政策においても、重点分野の一つとして環境が位置付けられており、研究所の使命を着実に達成することへの国民の期待は大きい。

また、平成17年度中の決定に向けて現在検討中の新たな科学技術基本計画では、「社会・国民に支持され、成果を還元する科学技術」、「人材育成と競争的環境の重視」が基本姿勢になっている。

こうした背景の下、研究所は、新たな食料・農業・農村基本計画(平成17年3月25日閣議決定)に対応して平成17年3月に策定された「農林水産研究基本計画」(平成17年3月30日農林水産技術会議決定)に基づき、農業生産を支える環境に関する基礎的・基盤的研究の重点化を行い、研究成果の効果的な普及により、地球規模で発生している農業環境問題の解決に科学的論拠を提供し、次世代に継承すべき農業環境の保全を実施する政策に貢献すべく中期計画を策定し、着実に実施する。

第1 中期目標の期間

研究所の中期目標の期間は、平成18年4月1日から平成23年3月31日までの5年間とする。

第2 業務運営の効率化に関する事項

運営費交付金を充当して行う事業については、業務の見直し及び効率化を進め、一般管理費については、中期目標期間中、毎年度平均で少なくとも前年度比3%の削減を行うほか、業務経費については、中期目標期間中、毎年度平均で少なくとも前年度比1%の削減を行う。

また、人件費については、行政改革の重要方針(平成17年12月24日閣議決定)を踏まえ、今後5年間において、5%以上の削減(退職金及び福利厚生費(法定福利費及び法定外福利費)を除く。また、人事院勧告を踏まえた給与改定部分を除く。)の取組を行うとともに、国家公務員の給与構造改革を踏まえた給与体系の見直しを進める。

1.評価・点検の実施と反映

業務の質の向上と業務運営の効率化を図るため、運営状況、研究内容について、自ら適切に評価・点検を行う。

研究内容の評価・点検については、農業その他の関連産業、国民生活への社会的貢献を図る観点から、できるだけ具体的な指標を設定して取り組む。また、研究成果の普及・利用状況の把握、研究資源の投入と得られた成果の分析を行う。

評価・点検結果については、独立行政法人評価委員会の評価結果と併せて、業務運営への反映方針を明確化した上で、的確に業務運営に反映させる。

職員の業績評価を行い、その結果を適切に研究資源の配分や処遇等に反映する。

2.研究資源の効率的利用及び充実・高度化

農業環境に係る行政ニーズの把握、国内外の技術開発動向や学会の動向の調査・分析等、研究の企画・立案に必要な情報収集・分析機能を強化する。

(1)研究資金

研究所は、中期目標の達成のため、運営費交付金を効率的に活用して研究を推進する。さらに、研究開発の一層の推進を図るため、委託プロジェクト研究費、競争的研究資金等の外部資金の獲得に積極的に取り組み、研究資金の効率的活用に努める。

(2)研究施設・設備

研究施設・設備については、老朽化の現状や研究の重点化方向を考慮の上、効率的な維持管理等が行われるよう計画的に整備し、その有効活用に努める。

(3)組織

農業環境に係る政策や社会的ニーズに迅速に対応し、研究成果を効率的に創出するため、研究資金、人材、施設等の研究資源を有効に活用し得るよう、具体的な研究分野、研究課題の重要性や進捗状況も踏まえ、研究組織を、再編・改廃を含めて機動的に見直す。

(4)職員の資質向上と人材育成

研究者、研究管理者及び研究支援者の資質向上を図り、研究所の業務を的確に推進できる人材を計画的に育成する。そのため、具体的な人材育成プログラムを策定するとともに、競争的・協調的な研究環境の醸成、多様な雇用制度を活用した研究者のキャリアパスの開拓、研究支援の高度化を図る研修等により、職員の資質向上に資する条件整備に努める。

3.研究支援部門の効率化及び充実・高度化

効率的かつ効果的な運営を確保するため、以下のような研究支援部門の合理化に努める。

総務部門の業務については、業務内容等の見直しを行い、効率的な実施体制を確保するとともに、事務処理の迅速化、簡素化、文書資料の電子媒体化等による業務の効率化に努める。

現業業務部門の業務については、調査及び研究業務の高度化に対応した高度な専門技術・知識を要する分野に重点化を図るために業務を見直し、研究支援業務の効率化、充実・強化を図るよう努める。

研究支援業務全体を見直し、極力アウトソーシングを推進する等により、研究支援部門の要員の合理化に努める。

4.産学官連携、協力の促進・強化

農業環境に関する基礎的・基盤的研究水準の向上並びに研究の効率的実施及び活性化のため、国、他の独立行政法人、公立試験研究機関、大学、民間等との共同研究等の連携・協力及び研究者の交流を積極的に行う。その際、他の独立行政法人との役割分担に留意するとともに、円滑な交流システムの構築を図る。

5.海外機関及び国際機関等との連携の促進・強化

環境問題の地球規模の拡大に対応し、それらの効率的な解決に資するための国際的な研究への取組を強化する。このため、環境科学分野での国際的イニシアチブの確保、国内外の研究機関との連携を積極的に推進する。

第3 国民に対して提供するサービスその他の業務の質の向上に関する事項

1.試験及び研究並びに調査

(1)重点研究領域

新たな中期目標を定めるに当たり、研究所の独自性を発揮する観点から農業生産環境の安全性を確保するための基礎的な調査及び研究への特化・重点化を図りつつ、食料・農業・農村基本計画に対応して策定した「農林水産研究基本計画」に示された研究開発を推進するため、「農業環境のリスクの評価及び管理に向けた研究開発」、「自然循環機能の発揮に向けた農業生態系の構造・機能の解明」及び「農業生態系の機能の解明を支える基盤的研究」を重点的に実施する。なお、研究開発に当たっては、安全性及び研究推進への国民の理解の確保に努める。

(2)研究の推進方向

研究に係る目標の作成に当たって、次のように定義した用語を主に使用して段階的な達成目標を示す。また、研究対象等を明示することにより、達成すべき目標を具体的に示す。

解明する:原理、現象を科学的に明らかにすること。
開発する:利用可能な技術を作り上げること。
確立する:技術を組み合わせて技術体系を作り上げること。

ア 農業環境のリスクの評価及び管理に向けた研究開発

この研究領域においては、農業生産環境の安全性を確保するため、農業環境のリスクの評価及び管理に向けた研究開発を推進し、豊かな環境の形成と次世代への継承、農産物の安全・信頼の確保等に貢献する。研究開発の推進に際しては、農業生産技術に関する研究、農村を対象とした工学的・社会科学的研究、林業及び水産業等に関する研究、生態学、生命科学、医学等の様々な分野との連携並びに諸外国の研究機関や国際機関との連携に留意する。

(ア)農業生態系における有害化学物質のリスク管理技術の開発

農地を含む非特定汚染源からの化学物質の農業生態系外への負荷の拡大や負荷の広域的な拡散に対する懸念が高まっている中、化学物質等による生態系のかく乱リスクの評価とその広域拡散を防止する技術の開発が課題となっている。

このため、有害化学物質の生態リスク評価手法及び生態リスク管理技術の開発を行う。

特に、有害物質やドリン系を含む残留性有機汚染物質(POPs)によるリスクを低減するための技術(土壌改良資材等を利用して作物への吸収を抑制する技術、浄化植物に土壌中の重金属を吸収させ除去するファイトレメディエーション技術等)の開発について着実に実施する。

(イ)農業生態系における外来生物及び遺伝子組換え生物のリスク管理技術の開発

外来生物(侵入・導入生物)及び遺伝子組換え生物等の逸出や、生態系影響に対する懸念が高まっている中、生物による生態系のかく乱リスクの評価とその広域拡散を防止する技術の開発が課題となっている。

このため、外来生物・遺伝子組換え生物の生態リスク評価手法及び生態リスク管理技術の開発を行う。

特に、新しく開発される遺伝子組換え生物による周辺の動植物への影響評価手法の開発や、定量PCR法等による高精度・迅速な検出技術の開発について着実に実施する。

イ 自然循環機能の発揮に向けた農業生態系の構造と機能の解明

この研究領域においては、農業生態系の構造と機能の解明及び農林水産業の変化による農業生態系の変動メカニズムの解明を推進する。これらの基礎的研究により、農業・農村が有する自然循環機能の高度な発揮や持続的な農業生産に向けた技術開発を加速するとともに、世界の食料問題及び環境問題の解決に貢献する。研究の推進に際しては、林業及び水産業分野との連携並びに環境科学・生態学分野との連携に留意する。

(ア)農業生態系の構造・機能の解明と評価

農業生態系の適正な管理及び生態系機能を活用した持続的生産技術の確立を図るためには、農業生態系を構成する生物・非生物資源の組成と時間的・空間的分布等の生態系の構造並びに生物種間の相互関係、生物種と非生物資源との相互関係及び物質の移動等の生態系の機能に関する知見の蓄積が不可欠であり、生物の生態的地位、種間関係の解明や生物多様性の客観的評価手法の確立が課題となっている。

このため、農業生態系における生物種の構成と動態及び機能を明らかにすることにより、農業生態系の構造の解明を行う。

(イ)農業生態系の変動メカニズムの解明と対策技術の開発

安全な国土と水資源の確保に対する期待が高まる中、国内農業の活力の低下等に伴い農地等の維持管理が困難となり、水循環や物質循環の健全性等への危惧が拡大しつつある。国際的には、世界規模の食料不足や環境問題の解決が求められる中、地球温暖化の進行による気象災害の拡大と農業生産の不安定化に対する懸念が高まっており、農業活動と農業生態系や地球環境変動との相互作用等に関する知見の蓄積が課題となっている。

このため、気候変動等の地球環境変動と農業生態系との間の相互作用の解明及び農業活動の変化が自然循環機能に及ぼす影響を解明するとともに、その管理技術を開発する。

ウ 農業生態系の機能の解明を支える基盤的研究

この研究領域においては、生態系機能の解明を加速するための長期モニタリングを実施するとともに、農業環境インベントリー(環境資源の試資料を体系的に保存・記録・情報化する仕組み)の整備・活用を推進する。なお、研究の推進に際しては、分析技術、情報技術等に係る多様な分野との連携及び研究基盤・情報基盤の有効活用に留意する。

(ア)農業に関わる環境の長期モニタリング

地球温暖化や突発的な災害等による環境変化を評価し、農業資源の適切な評価と管理を行うためには、代表的な地点における生態系の長期にわたる継続的なデータの収集と有用なデータベースの構築が課題となっている。

このため、農業環境の簡易・高精度測定手法の開発及び長期モニタリングを行う。

(イ)環境資源の収集・保存・情報化と活用

野外における環境資源の調査・分析及び各種モニタリング等の研究の進展に伴い、これらの研究から得られる標本及び情報等の資産を効率的に活用して研究の加速化につなげ、国内外における研究のイニシアチブを確保することが課題となっている。

このため、環境資源の総合的なインベントリーの構築と活用手法の開発を行う。

2.研究成果の公表、普及の促進

(1)国民との双方向コミュニケーションの確保

研究開発の推進に際しては、科学技術の進歩と国民意識とのかい離から、一般国民にとって研究開発が目指す方向が分かりにくい状況となっていることを踏まえ、研究所及び研究者がそれぞれ国民に対する説明責任を明確化し、多様な情報媒体を効果的に活用して、国民との継続的な双方向コミュニケーションの確保を図る。特に、農業環境と科学技術との関係等に関して科学的かつ客観的な情報の継続的な提供と、研究の計画段階から国民との情報の共有を図る取組、情報発信等の活動を推進する。

(2)成果の利活用の促進

新たな知見・技術のPRや普及に向けた活動、行政施策への反映を重要な研究活動と位置付け、研究者及び関連部門によるこれらの活動が促進されるように努める。

研究成果は、第1期中期目標期間で得られたものを含めて、データベース化やマニュアル作成、応用研究との連携等により積極的に利活用の促進を図る。普及に移し得る成果の件数については、数値目標を設定して創出に取り組む。

(3)成果の公表と広報

研究成果は、積極的に学術雑誌等への論文掲載、学会での発表等により公表するとともに、主要な成果については各種手段を活用し、積極的に広報を行う。査読論文の数及びそのインパクトファクター(IF)については、数値目標を設定して成果の公表に取り組む。

(4)知的財産権等の取得と利活用の促進

重要な研究成果については、我が国の農業の振興に配慮しつつ、国際出願も含めた特許権等の迅速な取得により権利の確保を図るとともに、民間等における利活用を促進する。

特許出願件数については、数値目標を設定して取り組む。

3.専門分野を活かしたその他の社会貢献

(1)分析、鑑定の実施

行政、民間、各種団体、大学等の依頼に応じ、研究所の有する高い専門知識が必要とされる分析、鑑定を実施する。

(2)講習、研修等の開催

講習会の開催、国公立機関、民間、大学、海外機関等外部機関からの研修生の受入れ等について数値目標を設定して積極的に取り組む。

(3)行政との連携

他の独立行政法人との役割分担に留意しつつ、食品安全基本法(平成15年法律第48号)による農産物・食品の安全性・信頼性の確保に向けての技術支援等の緊急対応を含め、行政部局や各種委員会等への技術情報の提供や専門家の派遣を行う。

(4)国際機関、学会等への協力

国際機関、学会等への専門家の派遣、技術情報の提供等を行う。

第4 財務内容の改善に関する事項

1.収支の均衡

適切な業務運営を行うことにより、収支の均衡を図る。

2.業務の効率化を反映した予算計画の策定と遵守

「第2 業務運営の効率化に関する事項」及び上記1に定める事項を踏まえた中期計画の予算を作成し、当該予算による運営を行う。

第5 その他業務運営に関する重要事項

1.人事に関する計画

(1)人員計画

期間中の人事に関する計画(人員及び人件費の効率化に関する目標を含む。)を定め、業務に支障を来すことなく、その実現を図る。

(2)人材の確保

研究職員の採用に当たっては、任期制の一層の活用等、雇用形態の多様化及び女性研究者の積極的な採用を図りつつ、中期目標達成に必要な人材を確保する。研究担当幹部職員については公募方式等を積極的に活用する。

2.情報の公開と保護

公正で民主的な法人運営を実現し、研究所に対する国民の信頼を確保するという観点から、情報の公開及び個人情報保護に適正に対応する。

3.環境対策・安全管理の推進

研究活動に伴う環境への影響に十分な配慮を行うとともに、エネルギーの有効利用やリサイクルの促進に積極的に取り組む。さらに、事故及び災害を未然に防止する安全確保体制の整備を行う。