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情報:農業と環境 No.63 (2005.7)
独立行政法人農業環境技術研究所

本の紹介 171: フード・セキュリティー:だれが世界を養うのか、レスター・ブラウン 著、福岡克也 監訳、ワールドウォッチジャパン(2005)

レスター・ブラウンの著作のいくつかはすでにこの欄で紹介しているが、本書は前作の「エコ・エコノミー」「プランB」を引き継ぐものとして構想されている。

著者は、「人類の生産活動が、地球の自然システムの限界を超えつつある」(Outgrowing the Earth)をモチーフに、このまま進めば、世界のフード・セキュリティーは遠からず崩壊するであろうと警鐘を鳴らす。食糧が保障されていた「過剰の時代」の考え方を引きずった政策や財政の優先順位がいまだにとり続けられているが、もはやそうした時代は幕を下ろし、「不足の時代」が幕を開けたと。

食料の備蓄など、わが国が進めている食料安全保障のための政策もフード・セキュリティーと英訳されるが、本書は、より広く、世界規模の問題としてとらえている。フード・セキュリティーを確保するために解決すべき課題として、本書は以下のものをあげている。将来のフード・セキュリティーを確保することは決して簡単なことではないことがわかる。

1)アフリカのHIV/エイズの流行に歯止めをかけること

2)一人当たりの農地の減少に歯止めをかけること

3)中国の砂漠化を防止すること

4)過耕起による土壌侵食を防止すること

5)温暖化を防止すること

6)地下水の過剰な揚水や河川からの過大な取水を抑制すること

7)工業化や都市化による農業用水や農地の転用を規制すること

これらの課題を解決するためには、リーダーの力強い政治的意思が今こそ求められていることを本書は再認識させてくれる。

目次

はじめに

第1章 「地球の限界」へ突き進んだ「膨張の半世紀」

激減した世界の穀物在庫は危機的水準に

経済成長の思わぬブーメラン効果

歴史的水不足、歴史的高温

ジャパン・シンドローム

中国も、ジャパン・シンドロームで穀物輸入大国に

グローバル・フード・セキュリティーの課題

第2章 地球号の定員は70億人か

地球の現実とかけ離れていく人口予測

人口増加がもたらす社会的緊張、そして紛争

人口増加が激しい途上国の「人口疲れ」

「人口ボーナス」というチャンス

タイとイランの成功物語、そして世界の選択は?

貧困の撲滅こそが人口の安定化への道

第3章 途上国のホットコール、「もっと肉を!」

経済成長がもたらす食肉需要

中国で大増産の豚肉、鳥肉、コイ

あまりの乱獲、そしてあまりの過放牧

食肉の大増産を支える大豆

ユニークなタンパク質生産モデル

第4章 地球の食糧生産力を診断する

世界の穀物増産に貢献した日本の品種改良

増産を支えた肥料と灌漑の効果も横ばいに

増産をもたらす画期的技術は開発されるのだろうか

将来の選択肢――農村コミュニティの力を生かす

第5章 砂漠化と駐車場が農地を脅かす

雨で、風で表土が失われ、食糧生産力が失われる

アフリカで中国で、砂漠が拡大する

道路や駐車場へ転用される耕地

棚田や不耕起栽培で表土を保全する

耕地を守るための交通政策を

第6章 いよいよ深刻になる「水不足の世紀」

食糧生産への影響が出始めている、地下水位の低下

世界の大河川で始まっている「断流」

都市と農業が水を奪い合う

水不足が国境を越える

世界で、水の生産性を高める総力戦を

第7章 地球温暖化は食糧生産にダメージ

上昇する気温が収量を低下させていく

「温暖化は農業に望ましい」という希望的観測

フード・セキュリティーのため、地球温暖化防止を

エネルギー担当省もフード・セキュリティーに貢献する

第8章 中国が世界の穀物を買い占める日

穀物作付面積を縮小させる近代化と砂漠化

水産養殖でタンパク資源を

北京の深井戸は1000メートルの地底へ

不足分は国際市場から調達する

新しい食糧戦略ビジョン

第9章 ブラジル農業への期待と環境不安

アンチョビーの大不漁をきっかけに、大豆の大増産へ

アメリカと並ぶ飼料供給大国になれるか

輸送コストを肉輸出で吸収

人口増と所得増で、国内需要が増えている

生産拡大をためらわす、リスクとコスト

第10章 グローバル・セキュリティーをめざして

大きな期待はできない、世界の農業生産力

「不足の時代」の政治が始まる

地球の自然資源を安定させる

フード・セキュリティーはグローバル・セキュリティーに不可欠

原注

監訳者あとがき

レスター・ブラウンのこと

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