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情報:農業と環境 No.64 (2005.8)
独立行政法人農業環境技術研究所

総合科学技術会議が第3期科学技術基本計画中間取りまとめ:「科学技術基本政策策定の基本方針」を決定

わが国の科学技術政策は、科学技術基本法に基づく科学技術基本計画のもとに、科学技術創造立国を目指して、推進されている。科学技術基本計画は5年を計画期間として、平成8年度から12年度までの第1期基本計画、平成13年度から17年度までの第2期基本計画が策定されている。本年度が第2期基本計画の最終年度であるため、平成16年度に第3期基本計画策定のための検討作業に着手し、その中間取りまとめとして、総合科学技術会議はこのたび科学技術基本政策策定の基本方針を公表した。

その内容は、1.基本理念、2.科学技術の戦略的重点化、3.科学技術システム改革の推進、4.社会・国民に支持される科学技術、5.国際的取組、6.総合科学技術会議の役割から構成されている。

「基本理念」においては、科学技術投資を一層効果的に行う、科学水準の向上を図り知的・文化的価値を創出する、科学技術の成果を社会・国民に還元する努力を強化する、説明責任を強化し科学技術施策に対する国民の理解と支持を得ることを第3期基本計画の基本姿勢とすると述べる。その上で、人類の英知を生む、国力の源泉を創る、健康と安全を守ることを3つの理念とし、さらに、これらの理念を実現するために具体化された政策目標として6つの大目標(飛躍知の発見・発明、科学技術の限界突破、環境と経済の両立、イノベーター日本、生涯はつらつ生活、安全が誇りとなる国)と12の中目標を設定した。

「科学技術の戦略的重点化」では、基礎研究の推進と、政策課題対応型研究における研究分野の重点化をさらに強力に進める。後者については、第2期基本計画で重点化対象となっている4分野(ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料)を第3期においても重点化対象とするが、それら分野の中でもさらに領域を絞り込み、投資効果を一層向上させる方策を確立するという。「科学技術システム改革の推進」では、優れた努力には必ず報いるよう、研究者・研究機関への適切な動機付けを設定すること、競争的研究環境を可能な限り醸成すること、研究開発の不必要な重複を排除しつつ、主体間の連携を十分に推進することをシステム改革の基本に掲げている。さらに、競争的研究環境整備のための資金配分、科学技術関係人材の育成・活躍の促進などについて具体的に述べている。

以上のほか、科学技術政策に関する説明責任の強化や、国民の科学技術への主体的な参加を促進することなどについては「社会・国民に支持される科学技術」で、また、アジアにおける多層的なネットワークの形成など戦略的国際活動を推進することや、魅力ある世界的な研究拠点の形成など国際化施策を一層推進することが「国際的取組」で謳(うた)われている。

基本方針を読み終えたとき、「科学技術の戦略的重点化」で安全と安心がとくに取り上げられて記述されているが、フード・セキュリティーに関する記載がまったくないことに気づいた。レスター・ブラウンの最近の著作(「フード・セキュリティー:だれが世界を養うのか」「エコ・エコノミー」など)を引き合いに出すまでもなく、わが国の食料安全保障のみならず、世界の多くの人々が直面している食料問題の解決に向けた取組みに、わが国の科学技術政策は無縁であってよいのであろうか。6つの政策目標の達成によって、世界への貢献(人類共通の課題を解決、国際社会の平和と繁栄を実現)、社会への貢献、国民への貢献が図られると述べている「目指すべき国の姿と科学技術政策の理念」に矛盾しているように思え、違和感を拭(ぬぐ)い去ることができなかった。

なお、「科学技術基本政策策定の基本方針」の本文、参考資料などが、総合科学技術会議Webサイト「科学技術基本政策策定の基本方針」(中間取りまとめ)で、公開されている。

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