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情報:農業と環境 No.65 (2005.9)
独立行政法人農業環境技術研究所

論文の紹介: 保全事業におけるモニタリングと評価:動向と今後の取組み

Monitoring and Evaluation in Conservation: a Review of Trends and Approaches Caroline Stem et al. Conservation Biology 19: 295-309 (2005)

農業環境技術研究所は、農業生態系における生物群集の構造と機能を明らかにして生態系機能を十分に発揮させるとともに、侵入・導入生物の生態系への影響を解明することによって、生態系のかく乱防止、生物多様性の保全など生物環境の安全を図っていくことを重要な目的の一つとしている。このため、農業生態系における生物環境の安全に関係する最新の文献情報を収集しているが、今回は生物の保全に不可欠なモニタリングと評価の方法について概説した論文を紹介する。

要約

管理プロジェクトが成功するかどうかは、モニタリングと評価のシステムがうまく設計されているかどうかに左右されることが、保全の実施者や研究者の間で共通の認識になりつつある。保全組織のほとんどが、モニタリングと評価のシステムを開発し、実施しようとしてきたが、うまくいかない場合も多かった。ひとつの問題は、個々の保全組織が独自のシステムを最初から作ろうとして、有用で実際的なモニタリングと評価の方法を開発する多くの努力から得られた教訓を見ていないことである。このため、著者らは、保全およびそれ以外の分野(国際的な開発、公衆衛生、家族計画、教育、社会サービス、事業など)におけるモニタリングと評価の方法について、350件以上の出版物やWebサイトを調査した。本論文では、このうち保全分野について100件以上を調査した結果を報告する。

さまざまなモニタリングと評価の方法を、4つの大きな目的、すなわち、(1)基礎調査、(2)説明責任と検証、(3)状態の評価、(4)保全活動の有効性の判断に分類し、とくに「状態の評価」と「有効性の判断」に焦点を当てた。

「状態の評価」には、種、個体群、生態系など特定の保全対象の条件や状態を評価することが含まれる。状態を評価することによって、ある保全対象がある特定の時点にどのような状態であったかがわかる。一方、有効性を判断するための評価は、実施者が行った個々の対策と関連付けられる。有効性判断のための評価は、大きく、影響評価(impact assessment)と順応的管理(adaptive management)とに分けられる。影響評価は、通常1回限りの評価であり、あるプロジェクトの完了時に、その効果を確かめるために行われることが多い。また、考えられる保全対策の妥当性を評価するための予測評価の場合もある。順応的管理とは、プロジェクトの設計、管理およびモニタリングを統合して、保全対策の効果を計画的に調べるために管理の修正とその結果の調査をくりかえす手順である。順応的管理の最終的な目標は、修正とその結果の調査による、進行中のプロジェクトや保全対策の改善である。

保全事業のモニタリングと評価の方法を調査した結果、一般的に次のことが言える。(1)モニタリングや評価の目的により、必要とされる手法は異なる、(2)普及している方法には概念的に類似したものが多い、(3)保全組織の間で用語が統一されておらず、情報交換や相互理解が妨げられている、(4)モニタリングと評価のシステムを構成する要素(枠組み、モデル、手段など)の用語が不統一で、構成要素の用途が明確にされていないため、保全の実務者が適切な構成要素を選択できない、(5)生物学的な量的変量をモニタリングするだけでは不十分であり、社会、経済、政策、文化にかかわるモニタリングの実施や、モニタリングと評価を含むプロジェクト管理への利害関係者の参加の重要性が認識されつつある。

著者らは、最後に、保全関係者がすぐに取り組める行動として、モニタリングと評価の方法を改善するために協力すること、モニタリングと評価の各手法で使われる用語を明確に定義し、混同されないようにすること、モニタリングと評価のシステムの構成要素の使用目的を明確にして有効な方法を適切に利用できるようにすること、社会・経済等の変動をモニタリングし、実行可能ならば有用な質的なデータも利用することを提案している。

(生物環境安全部 松井 正春)

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