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情報:農業と環境 No.65 (2005.9)
独立行政法人農業環境技術研究所

本の紹介 181: 成長の限界 人類の選択、ドネラ・メドウズら著、枝廣 淳子 訳、ダイヤモンド社 (2005) ISBN 4-478-87105-1

この本は、Limits to Growth: The 30-Year Update by Donella M. Meadows, Jorgen Randers and Dennis Meadows (2004) の日本語訳である。1972年に刊行された The Limits to Growth 『成長の限界』と、1992年の Beyond the Limits 『限界を超えて』につづく、シリーズ3作めにあたる。

『成長の限界』において、著者らは、システム・ダイナミクス理論とコンピュータモデリングを用いて世界の人口と物質経済の成長のさまざまなシナリオを分析した。地球上の天然資源の枯渇と環境汚染の進行により、21世紀中に成長を続けられなくなるというのがその結論であった。ただし、人口と生活の豊かさが急激に衰退し、社会が崩壊するようなシナリオとともに、早めに社会システムをかえることで、比較的高い豊かさの水準を長期間、安定して保つことができるシナリオも提示されていた。

20年後に刊行された『限界を超えて』では、1970年から1990年までの地球規模の情報が追加され、同様な分析が行われた。この本では、人類は地球の能力の限界を超え、「行き過ぎ」の段階に入っていると結論づけられた。だが、地球規模で賢明な政策がとられ、技術や制度、政治の目標や個人の望むものを変えることで、行き過ぎのもたらすダメージを減らすことができることが示された。

さて、本書『成長の限界 人類の選択』は、『成長の限界』から30年後の現状と今後のシナリオをどのように語っているのだろうか。「エコロジカル・フットプリント」で測られた世界全体の資源消費量は、地球の扶養力を大きく上まわっている。人類はすでに持続可能ではない領域にいるが、地球規模のフットプリントは今なお増大し続けている。以上が著者らの現状認識である。

それでは地球の将来についてはどうか。人類は限界を大きく行き過ぎてしまったが、その結果、必ずしも破局がやってくるとは限らない。成長を前提とする現在の社会システムの性質を理解し、適切な修正を加えることにより、ある程度の生活水準を保ちながら持続的な社会を維持できるシナリオはまだ残っていると著者らは言う。

それは、農業革命と産業革命に続く第3の大きな革命、持続可能性革命とならざるを得ないだろう。これを成功させるためには、5つのツール:「ビジョンを描くこと」、「ネットワークを作ること」、「真実を語ること」、「学ぶこと」、「慈(いつく)しむこと」を有効に使うことが必要であると本書は結んでいる。

エコロジカル・フットプリントとは

人間が自然環境にどのくらい影響しているかをあらわす指標で、人間が生活するために使用している土地面積で表される(本書で使用しているモデルでは、食料を生産する農地、二酸化炭素など排出された汚染物質を吸収するための土地、道路や建築物などに使われる都市の土地の合計面積を用いている)。生態学的な(Ecological)、人間の占有面積/足あと(Footprint)。

人類全体のエコロジカル・フットプリントは地球が持続的に供給可能な自然資源に対する割合で表わされる。世界自然基金(WWF)の「リビング・プラネット・レポート」( LIVING PLANET REPORT 2004 (PDFファイル) ) によれば、人類は1980年代後半から地球が持続的に提供できる以上の資源を使うようになり、2001年には地球が1年間に再生可能な資源の120パーセントが消費されている。

目次

序文

物理的な限界を示唆した『成長の限界』

成長、行き過ぎ、そして崩壊

人類が持続可能でない領域に進み始めた証拠

増大する人類のエコロジカル・フットプリント

楽観できない地球の未来

『成長の限界』は正しかったのか?

人類は行き過ぎてしまった

現実を見つめるためのシナリオ

持続可能な社会への移行

「行き過ぎて崩壊する」シナリオの実現性

未来に向けて人類ができること

第1章 地球を破滅に導く人類の「行き過ぎ」

「行き過ぎ」を招く3つの要因

地球をシステムとしてとらえる

「可能な未来」への進路

第2章 経済に埋め込まれた幾何級数的成長の原動力

倍増を続ける幾何級数的成長の行方

幾何級数的成長の原動力になる人口と資本

350年前、世界の人口は5億人だった

急拡大した世界の工業経済

人口が増え、貧困が増し、人口がさらに増える

第3章 地球の再生が不可能になる−供給源と吸収源の危機

食糧・土壌・水・森林の限界

再生不可能な供給源は何か

汚染と廃棄物の吸収源は何か

限界を超えて

人類に突きつけられた恐ろしい現実

第4章 成長のダイナミックを知る−ワールド3の特徴

「現実の世界」をモデル化する

地球の行動パターンを理解する

ワールド3の構造

成長するシステムの「限界」と「限界なし」

「現実の世界」で起こるさまざまな遅れ

行き過ぎて振り子が振れる

行き過ぎて崩壊する

2つの可能なシナリオ

なぜ、行き過ぎて崩壊するのか?

第5章 オゾン層の物語に学ぶ−限界を超えてから引き返す知恵

成長―世界で最も役に立つ化合物

限界―オゾン層の破壊

オゾン層破壊の最初のシグナル

遅れ―抵抗する産業界

限界を超えた地球―オゾンホールの発見

国際政治に突きつけられた「動かぬ証拠」

オゾン層を守れ

オゾン層の物語から得られる教訓

第6章 技術と市場は行き過ぎに対応できるのか

「現実の世界」における技術と市場

技術の力で限界を引き延ばすことはできるか

「現実の世界」のシナリオの限界

なぜ、技術や市場だけでは行き過ぎを回避できないのか

市場の不完全性の一例―石油市場の変動

そして漁場の崩壊の歴史

第7章 持続可能なシステムへ−思考と行動をどう変えるか

人口増加のシミュレーションで考える

環境への負荷を減らす成長の抑制と技術の改善

20年という時間がもたらす違い

持続可能な物質消費のレベル

持続可能な社会をどうつくるか

第8章 いま、私たちができること−持続可能性への5つのルール

農業革命と産業革命の歴史に学ぶ

次なる革命―持続可能性革命の必然性

ビジョンを描くこと

ネットワークをつくること

真実を語ること

学ぶこと

慈しむこと

付章1 ワールド3からワールド3−03への変換

付章2 生活の豊かさ指数と人類のエコロジカル・フットプリント

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