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情報:農業と環境 No.66 (2005.10)
独立行政法人農業環境技術研究所

野内 勇氏: 大気環境学会学術賞を受賞

当研究所の職員である野内 勇氏(地球環境部 気象研究グループ長)は、第46回大気環境学会年会(2005年9月7〜9日)において大気環境学会学術賞(斎藤潔賞)を受賞した。この賞は、国内外において大気環境分野の学術上ならびに社会的に顕著な業績をあげた人に贈られるものである。同年会2日目の愛知県産業貿易館での総会における表彰式の後、受賞記念講演が行われた。受賞の概要は次の通りである。

「大気環境変化に対する植物の反応に関する研究」
野内 勇(地球環境部 気象研究グループ長)

研究の概要

氏は、光化学オキシダント(主成分はオゾン)による植物被害とその被害発現機構に関する研究を手始めに、当所においては、オゾンによる農作物の成長影響に関する研究、地球規模の環境変化が農業生態系に及ぼす影響の評価および農業活動が地球環境に及ぼす影響に関する研究を行った。

水稲の生育に対する低濃度オゾンの長期曝露(ばくろ)の影響の研究では、水稲はオゾンのストレスにより個体の成長が抑制されバイオマスが小さくなるが、成長を維持し障害を修復するために、(1)アスコルビン酸やグルタチオンなどの酸化還元物質含量と活性酸素防御系酵素群の活性が増加し、活性酸素に対する解毒能力が高まる、(2)葉の光合成を維持するために、栄養成長期の初期に根よりも茎葉の成長を優先させて地上部を大きくするが、その後、個体維持のため再び根の成長を回復させてバランスを保つ、(3)出穂期から登熟期にかけて、光合成産物を効率よく穂に転流させ、子実の充実をはかるなど、より多くの子孫を残すための成長戦略を持つことを明らかにした。

農作物に対する酸性雨の影響に関する研究では、人工酸性雨実験により、pH 3.0以上の酸性雨は農作物の生長や収量に影響しないことを明らかにした。また、オゾン層破壊による紫外線量の増加が農作物に及ぼす影響に関する研究では、自ら開発した調光型UV−B照射装置を用いた3年間にわたる水田ほ場での実験から、B領域紫外線(UV−B)の強度が現在より20%増加しても、コメの減収はあったとして2%程度にすぎないことを明らかにした。

農業活動が地球環境に及ぼす影響に関する研究では、水稲は、温室効果ガスであるメタン(CH)を水田土壌から大気に放出するパイプ役になっていること、酸性雨の原因ともなる含硫ガスであるジメチルサルファイド(DMS:CHSCH)を体内で生合成することを示すとともに、メタンの放出が、茎と葉鞘の接合部にある割れ目および葉鞘表面の微小な孔(マイクロポアと命名)から行われることを発見した。また、水稲体内のメタン輸送が濃度差を駆動力とする分子拡散であることを提唱するとともに、水田からのメタン放出の日変化と季節変化を、温度を組み込んだガス拡散抵抗モデルにより、土壌水中のメタン濃度、水稲の茎数、地温(または気温)でシミュレートすることに成功し,水田からのメタン発生削減のための貴重な基礎資料を提供した。

氏が実施した以上のような研究は、その時々の時代に勃発した大気環境問題に対応したものであり、その研究成果は社会や行政の要請に十分に応えたばかりでなく、大気環境と農業生態系の関係を研究する大気環境植物学という新たな分野を開拓した。

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