生物多様性の保全と生物資源の持続可能な利用、生物遺伝資源利用による利益の適切な配分を目的として、1993年12月に「生物多様性条約」が発効した。さらに、2003年9月には、この条約を補完する取り決めとして「バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書」が発効した。これらの条約、議定書の締約・締結国には関係政策の実施が義務付けられている。
このような背景のもと、OECD(経済協力開発機構)は本年(2005年)5月26日に「政策提言:生物多様性の保全とバイオセーフティの増進(Policy Brief: Preserving Biodiversity and Promoting Biosafety)」を発表した。この政策提言では、生物多様性(生きものと生息地の多様性)が人類の福祉に不可欠であり、その崩壊は経済、環境、社会に重大な影響を与え得るとし、各国の政府が、生物多様性の保全とバイオセーフティ(生物的安全性)の確保に「価値」を付けて推進するために、どのようなことができるかを示している。
生物多様性の保全については、生物多様性にはどのような価値があるか、生物多様性のための政策としてどのようなことがあるか、適切な生物多様性の利用をどのように奨励するか、生物多様性のための市場(しじょう)をどのように創造するかなどをとりあげている。
OECDは、経済活動と生物多様性管理とを結び付けることを政策の中心におくべきだと主張している。どの程度の生物多様性保全が必要なのか、あるいは、どんなやり方で実施するのがもっとも効率的かなどは基本的には経済の問題であり、経済原理によって生物多様性の保全を図るために市場の創造が必要であるとしている。上記の「価値」は市場価値を意味するのである。市場価値を通じて生物多様性の保全が促される事例として、有機農業やエコツーリズムなどをあげている。
バイオセーフティについては、「バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書」がそうであるように、もっぱら遺伝子組換え生物による生態系への影響の問題を扱っている。バイオセーフティはなぜ重要なのか、バイオセーフティをどのように確保するか、また、遺伝子組換え作物をどのようにして確認するかなどについて述べている。
遺伝子組換え作物の栽培が拡大する現状において、安全性の確保(生物多様性の保全)が必要であり、安全性評価手法を国際的に統一することが各国の利益に繋がるとしている。OECDは、遺伝子組換え生物利用についての各国の情報交換手段である"BioTrack Online"と、遺伝子組換え作物の安全性についてのデータベース
なお、この政策提言はOECDのWebサイトにおいて英語で公表されている (http://www.oecd.org/dataoecd/4/4/34932656.pdf (該当するページが見つかりません。2013年12月) )。
農業環境技術研究所では、外来生物の侵入・定着とその生態系への影響について、また、組換え作物栽培の生物多様性への影響について研究を行っている。農業環境技術研究所Webサイト内の、生物環境安全部の各研究グループと組換え体チームのページ(該当するページは削除されています。2012年5月)、農業環境インベントリーセンターの昆虫分類研究室のページ(該当するページは削除されています。2012年5月)、「アジア・太平洋外来生物データベース」のサイト (システム更新作業のためサービス休止中 [2013年2月20日]) 、研修資料「農業生態系の保全に配慮した農業技術」 などに研究の内容や成果が紹介されているので、関心のある方は参照していただきたい。これらの研究は、生物多様性の保全とバイオセーフティの増進のための技術開発や関連政策の立案・実行に有効な情報を提供している。
(企画調整部 木村 龍介)