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情報:農業と環境 No.69 (2006.1)
独立行政法人農業環境技術研究所

オープンセミナー 「化学物質の生態影響評価の現状と問題点」 が開催された

昨年2005年11月25日、農業環境技術研究所中会議室において、オープンセミナー「化学物質の生態影響評価の現状と問題点」が開催されました。参加者数は37人でした。

なお、第1回のオープンセミナー「農環研の化学生態研究:トピックスと将来方向」は、2004年10月に開催されており、今回は2回めの開催です。

以下にセミナーの概要を報告します。

開催のねらい

化学物質が人類とその生存基盤としての生態系を脅かす負の側面が指摘され、人体への影響に加え、その生態影響に基づいて化学物質を管理しようとする時代を迎えています。化学物質の生態影響評価に関する研究は、生態学、環境化学、毒性学などが融合した学際領域であり、その推進には学問分野や研究組織の壁を超えた強い連携が必要です。本セミナーは、異なる学会、異なる研究組織に所属する研究者による講演会を開催し、化学物質の生態影響評価の現状と問題点について忌憚(きたん)のない意見を交わすことによって、今後の研究交流の契機となることが期待されます。

プログラム

13:20 - 13:30 趣旨説明 (池田・農業環境技術研究所)

13:30 - 14:30 化学物質生態影響評価に対して生態学者ができること

五箇公一 (国立環境研究所・侵入生物研究チーム)

14:30 - 15:10 トビケラ幼虫を用いた農薬の影響評価法の開発〜コガタシマトビケラの試験生物化の試み〜

横山淳史 (農業環境技術研究所・農薬動態評価ユニット)

15:20 - 16:00 農薬の水域生態系における一次生産者におよぼす影響評価手法

石原 悟 (農業環境技術研究所・農薬動態評価ユニット)

16:00 - 16:40 絶滅危惧水生植物を用いた水田除草剤の生態影響評価

池田浩明 (農業環境技術研究所・植生生態ユニット)

16:40 - 17:00 総合討論

発表内容と討論の概要

セミナーでは、まず、五箇氏(国環研)が、化学物質審査法と農薬取締法の改正に関連する背景を紹介し、さらに実験水田(メソコズム)における野外試験の結果から、殺菌剤ジンクピリチオンと殺虫剤イミダクロプリドの急性毒性は室内試験(OECD法)と野外試験とで全く異なることを報告しました。

横山氏(農薬動態評価U)は、コガタシマトビケラの試験生物化の試みを紹介し、トビケラ類の幼虫を用いた殺虫剤MEPの急性毒性を報告しました。石原氏(農薬動態評価U)は、除草剤に対する藻類の感受性分布を報告し、OECD法の緑藻類ではそれらの感受性分布をカバーできないことを指摘しました。池田氏(植生生態U)は、絶滅危惧(ぐ)種の維管束植物3種が除草剤ベンスルフロンメチルに対して高い感受性を有し、OECD法の緑藻類ではその感受性をカバーできないことを指摘しました。

総合討論では、OECD法の限界、とくにそれが実環境を反映していない点が論議されました。化学物質の生態影響評価においては、1) わが国在来の固有種を試験生物として追加すること、2) 野外における化学物質の動態等の実環境を室内暴露試験に反映させること、3) 野外の生物群集から直接的に化学物質の影響を抽出すること、4) メソコズム試験の追加により生物的にも化学物質的にも野外の実環境をリスク評価に反映させることが重要であると結論づけられました。

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