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情報:農業と環境 No.71 (2006.3)
独立行政法人農業環境技術研究所

本の紹介 196: 地球環境化学入門(改訂版)、 J. E. アンドリューズ ほか 著、渡辺 正 訳、 シュプリンガー・フェアラーク東京 (2005) ISBN 4-431-71111-2

環境の構成要素である土壌、水系、大気、さらに生態系で起こっているさまざまな現象について、化学的法則に則(のっと)って化学的手法で分析することが論理的であったり、また、一連の化学反応をひもといていく過程で大きな興味を抱くこともある。しかし、環境化学の基礎となる、元素、原子、同位体、電子・・・や、化学結合、化学反応式など、化学的に攻めるための事実や法則をある程度理解しておくことが必須である。

本書は、地球全体から局地スケールで生じている環境変動や汚染といった問題が化学反応の絡む現象であり、その問題解決には「化学の目」が重要との認識に基づいている。初版が1997年に出版されているが、それ以後、環境科学が大きく進化したことから、とくに、環境中で進む有機化学反応、土壌の話、陸水の汚染、汚染の浄化について大幅な改訂が行われた。全体を通して、さまざまな化学反応式や、生体反応あるいは環境汚染に関係する物質の化学構造などが多数の図表・写真とともにわかりやすく列記されており、環境化学の入門書として最適である。

第1章の「地球の姿」で、「数十億年の歴史をもつ地球の化学システムで主役を演じるのは、表層にある水と、その成分である。だから「水の化学」を核にする。あらゆる生命に欠かせない水を仲立ちにして考えると、環境と人間の関係が浮き彫りになる」としている。地殻・海・大気の誕生と進化から、汚染メカニズム、汚染によって生じる生物への毒性的影響など広範囲の現象を、化学反応を中心に整理している。最終章の「変わりゆく地球」では、「自然の営みや人間活動が地球環境をどう変えるか、どう制御できるか」を考える場合、地表近くの環境を大気、水、土壌が一体となった統合システムとしてとらえ、全体としての影響を眺めることの必要性を説いている。その上で、「人間活動の寄与が大きく地球の広い範囲に影響する」として、炭素循環、硫黄循環、残留性有機汚染物質(POPs)について地球全体での動態と環境や生物に及ぼす影響が記されている。

本書に掲載された地球環境問題の多くはなじみのある現象であり、化学反応を中心にした解説書として化学物語的に読むのもおもしろい。さらに、随所に「Box」を設け、「酸と塩基」「酸性・アルカリ性の指標、pH」「酸化還元反応」「化学エネルギー」「有機汚染物質の挙動に影響する物理化学的性質」「キラルな化合物」など38項目について、ていねいに説明されており、化学の基礎を理解する上でも役に立つ情報である。

目次

新版まえがき

初版まえがき

第1章 地球の姿

1.1 環境化学=地球と人間活動のサイエンス

1.2 地球ができたころ

1.3 地球の誕生と進化

1.4 人間は生物地球化学サイクルを変える?

1.5 本書の構成

第2章 環境化学の道具箱

2.1 この章について

2.2 元素の序列

2.3 化学結合

2.4 化学反応式

2.5 物質の量:モル

2.6 濃度と活量

2.7 有機分子

2.8 放射性元素

2.9 次章以降の道具箱

第3章 大気の化学

3.1 はじめに

3.2 大気の成り立ち

3.3 定常状態と平衡状態

3.4 自然の営みが生む大気成分

3.5 微量気体の化学反応

3.6 都市の大気汚染

3.7 大気汚染と健康

3.8 大気汚染の害

3.9 汚染物質の退場ルート

3.10 成層圏の化学

第4章 陸地の化学

4.1 陸地という場

4.2 ケイ酸塩鉱物

4.3 風化

4.4 化学風化のしくみ

4.5 粘土鉱物

4.6 土壌の生成

4.7 土壌と粘土鉱物ができる道筋

4.8 イオン交換と土壌のpH

4.9 土壌の構造と分類

4.10 土壌の汚染

第5章 陸水の化学

5.1 はじめに

5.2 元素の溶けやすさ

5.3 陸水のイオン組成を決めるもの

5.4 アルミニウムの溶解性と酸性

5.5 水の成分と生物活動

5.6 重金属汚染

5.7 地下水の汚染

第6章 海の化学

6.1 はじめに

6.2 河口で起こる現象

6.3 海水の特徴

6.4 主要イオンの循環

6.5 海水の微量成分

6.6 海の生物を育てる鉄

6.7 海水循環と元素

6.8 海の化学と人間活動

第7章 変わりゆく地球

7.1 地球をまるごと考える

7.2 炭素の循環

7.3 硫黄の循環

7.4 残留性有機汚染物質

謝辞と出典一覧

訳者あとがき

索引

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