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情報:農業と環境 No.73 (2006.5)
独立行政法人農業環境技術研究所

農業環境技術研究所報告 第24号が刊行された

農業環境技術研究所報告 第24号が刊行されました。掲載された3つの論文の要約を以下に紹介します。なお、論文の表題をクリックすると各論文のPDFファイルにアクセスできます。

わが国の米、小麦および土壌における90Srと137Cs濃度の長期モニタリングと変動解析
駒村美佐子・津村昭人・山口紀子・藤原英司・木方展治・小平 潔 (最新のURLに修正しました。2012年1月)

わが国の米(玄米、白米)、小麦(玄麦、小麦粉)および水田・畑作土中の90Srと137Csの濃度を1959年から42年間にわたって調査した。米、小麦では90Sr、137Csともに1963年に最大値が観測された。この年は、大気からの放射性降下物の降下量が最も多く記録されている。水田・畑土壌の90Srと137Csの濃度は、降下量の多かった1963年から1966年にかけて最大値を示した。1966年以降、米・小麦および土壌ともに90Srと137Csの濃度は多少の増減を繰り返しながら漸減し続け今日に至るが、1986年には、チェルノブイリ原子力発電所の事故に起因する特異的に高い小麦の137Cs汚染が生じた。

上記の放射能汚染調査データを解析した結果、次のような興味ある知見が得られた。

a) 白米と玄麦の放射能汚染形態(直接汚染と間接汚染の割合)を解析した結果、白米、玄麦とも90Srと137Csが茎葉などから取り込まれる直接汚染の割合は、90Srと137Csの降下量が極めて多い1963年頃では70〜95%を占める。しかし、降下量が激減した1990年以降の汚染形態は直接汚染に代わり、経根吸収による間接汚染が主である。

b) 90Srと137Csの水田および畑作土内における滞留半減時間を試算したところ、水田作土では90Sr:6〜13年、137Cs:9〜24年、畑作土では90Sr:6〜15年、137Cs:8〜26年の範囲である。

c) 米および小麦の90Srと137Csの濃度と、水稲および小麦の栽培期間中における両核種の降下量との間にそれぞれ高い正の相関が成り立つ。この関係から回帰式を導き、栽培期間中に降下した90Srと137Csの量を知ることにより、米および小麦の放射能濃度を推定が可能である。

日本およびタイの農耕地における土壌有機物動態モデルの検証と改良
白戸康人 (最新のURLに修正しました。2012年1月)

土壌有機物動態モデルを日本とタイの長期連用試験データに適用した。日本の非黒ボク土畑ではRothCモデルが精度良く適合した。黒ボク土では適合しなかったが、多量の腐植が蓄積される黒ボク土の特性を考慮してピロリン酸塩可溶Al含量に応じて腐植画分の分解率を変えるなどの改良を加えたモデルでは精度が大きく向上した。タイの熱帯畑土壌では、有機物資材を施用しない場合にはRothCが精度良く適合したが、資材を多量施用した場合にはモデルが実測を上回り、土壌動物の活性の違いを考慮する必要性が示された。DNDCモデルは日本の水田のSOC経年変化をほぼ精度良く予測できた。ただし、作物生長を適切に予測するためのパラメータの調節が難しいなどの問題点も明らかになった。水田では、畑用のモデルであるRothCは適合しなかったが、水田土壌における有機物分解が畑よりも遅い原因を考慮し、稲作期間は0.2倍、非稲作期間は0.6倍に分解率を変えた改良モデルによって精度が向上した。

水稲作付面積計測への合成開口レーダ(SAR)の利用
石塚直樹 (最新のURLに修正しました。2012年1月)

日本の水稲作付面積は統計的手法により求められており、省力化が望まれている。本研究では雲があると観測できない光学センサを利用せず、全天候型のSARデータのみで水稲作付面積を求める手法の開発をめざした。数値地図25000を用いた非水田マスクを作る手法を考案し、2時期のRADARSATデータを組み合わせることによって、水稲作付面積を精度良く求める手法を確立した。

さらに、将来利用可能となるであろう多重波長・多重偏波SARデータを用いる手法の開発を目指した。ここでは、LバンドSARで水田を観測した場合に発生するブラッグ散乱の問題を、偏波情報を使うことにより解決することによって、1回の多重波長・多重偏波SAR観測による水稲作付面積計測アルゴリズムを開発した。そして、航空機SARデータを用いて検証をした結果、水稲作付地を精度良く抽出できることを確認した。

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