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情報:農業と環境 No.74 (2006.6)
独立行政法人農業環境技術研究所

研究プロジェクト 「土壌微生物相の解明による土壌生物性の解析技術の開発」 の開始

平成18年度から、eDNA(environmental DNA、環境中から抽出したDNAという意味)を利用して土壌生物相を解析する技術を開発するため、新たな研究プロジェクト「土壌微生物相の解明による土壌生物性の解析技術の開発」(農林水産省受託プロジェクト)が開始されました。

研究の背景

土壌中にはきわめて多種多様な微生物・小動物が生息しており、それらが土壌という場所でさまざまな物質循環を担っています。そして、こうした土壌生物の働きが、作物の生育の場所である土壌の肥沃度や土壌病害の発生・抑止にも大きな影響を及ぼしています。

そのため、こうした土壌生物が示す特性(土壌生物性)を明らかにして、土壌肥沃度や土壌病害の発生・抑止の評価につなげようという研究が進められてきました。しかしながら、現在の技術で培養できる微生物は土壌中の微生物のうちの1パーセントあるいはそれ以下と言われています。また、線虫などの土壌小動物は種類の同定が難しいため、研究があまり進んでいません。そうしたことが土壌の生物性を理解する上での大きな壁となっているのです。

近年、土壌などの環境サンプルから直接DNAを抽出し、そのDNA情報を解析して、そこに生息する微生物相を明らかにしようとする研究が急速に進展しています。農業環境技術研究所においても、土壌eDNAに関わる研究が鋭意進められてきました(下の関連情報を参照してください)。

プロジェクトの内容

(1) eDNA等を用いた土壌生物相の解析手法の開発

土壌eDNAなどを用いて、土壌微生物および土壌生物相を解析するための標準手法を確立します。

(2) 作物生産と土壌生物相との関連性の解析及び土壌生物多様性評価手法の開発

連作障害、病害多発、堆肥連用など農業生産とかかわりの深い土壌の微生物相を調査・解析し、作物生産性と土壌生物相との関連を解析します。

(3) eDNA情報のデータベース化及び利用技術開発

土壌eDNAの基礎的情報を土壌の種類、管理、作物生産性などの関連でデータベース化するとともに、eDNA情報を利用して病原菌などを簡易に検出するための新たな技術を開発します。

プロジェクト概要図 PDF

実施体制

この研究プロジェクトは、農業環境技術研究所を中核として、農業・食品産業技術総合研究機構(中央農研センター、野菜茶業研究所、北海道農研センター、東北農研センター、近畿中国四国農研センター)、東京大学、東京農工大学、名古屋大学、九州大学の協力・分担のもとに進められています。

関連情報 (農業環境技術研究所Webサイト内)

スキムミルクを用いた黒ボク土からのDNA抽出法 (平成14年度主要研究成果)

http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/sinfo/result/result19/result19_17.html

土壌抽出DNAを用いた土壌くん蒸処理の微生物群集への影響評価 (平成16年度主要研究成果)

http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/sinfo/result/result21/result21_17.html

論文の紹介: 土壌中の微生物相は夏と冬とで大きく異なり、積雪の下では未知の糸状菌が活動している (情報:農業と環境 64号)

http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/064/mgzn06408.html

論文の紹介: 1グラムの土壌中には数百万種もの多様な細菌がいる (情報:農業と環境 66号)

http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/066/mgzn06608.html

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