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情報:農業と環境 No.74 (2006.6)
独立行政法人農業環境技術研究所

食品の安全性に関するリスク管理への取り組み

食品の安全を確保するため、昨年(2005年)8月、農林水産省と厚生労働省によって「食品の安全性に関するリスク管理の標準手順書」が策定されました。

リスク管理においては、生産から消費に至る食品供給の各段階におけるリスク管理措置が重要であり、その管理措置は科学的な原則とともに国際基準に基づいていることを求めています。

また、各過程でのリスク管理を行う上で必要となる標準的な作業手順として下記の内容が示されました。

1.食品安全に関する情報の収集と解析、情報の共有

2.リスクプロファイル文書の準備、文献調査、予備的なリスクの推定、不足データの収集

3.危害要因の優先度の分類(優先度リストの作成、リスクコミュニケーション、データの収集)

4.リスクアセスメントポリシーの検討、食品健康影響評価の依頼、結果の考察

5.リスク管理措置案の検討、評価、措置案に対する食品健康影響評価

6.リスク管理措置の決定、実施

7.有効性の検証

なお、詳細は、
『農林水産省及び厚生労働省における食品の安全性に関するリスク管理の標準手順書』の概要
http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/sop/ (ページのURLが変更されています。2015年1月) )(農林水産省) を参照して下さい。

作成された標準手順書に基づき、食品安全に関わる情報や消費者、食品事業者などの意見をもとに、「農林水産省が優先的にリスク管理を行うべき有害化学物質のリストについて」と「食品の安全性に関する有害化学物質のサーベイランス・モニタリング中期計画」が作成され、本年(2006年)4月20日に消費・安全局より公表されました。

詳細は、
農林水産省が優先的にリスク管理を行うべき有害化学物質のリスト及び食品の安全性に関する有害化学物質のサーベイランス・モニタリング中期計画の作成について
http://www.maff.go.jp/j/press/cont2/20060420press_3.html (ページのURLが変更されています。2015年5月) )(平成18年4月20日農林水産省プレスリリース) を参照して下さい。

リスク管理を行うべき有害化学物質については、食品安全の確保を主眼に農林水産省の所掌範囲でリスク管理が実施できる物質を対象に選定することとされ、また、対象とする危害要因を分類するとともに、該当区分に相当する有害化学物質が提示されました。

(1)リスク管理を継続するため、ただちに含有量実態調査、リスク低減技術の開発などを行う必要のある危害要因

(1)一次産品に含まれる危害要因

・ 環境中に存在する:ヒ素、カドミウム、メチル水銀、ダイオキシン類(コプラナーPCBを含む)

・ かび毒:アフラトキシン、デオキシニバレノール、ニバレノール、パツリン、オクラトキシンA

(2)調理、加工など生成する危害要因

アクリルアミド、多環芳香族炭化水素、クロロプロパノール類

(2)リスク管理を継続する必要があるかを決定するため、危害要因の毒性や含有の可能性などの関連情報を収集する必要がある危害要因、またはすでにリスク管理措置を実施している危害要因

(1)一次産品に含まれる危害要因

・環境中に存在する:鉛、ポリブロモジフェニールエーテル

・かび毒:フモニシン、T-2トキシン、HT-2トキシン、ゼアラレノン

・その他:硝酸性窒素、麻痺性貝毒、下痢性貝毒、残留農薬

(2)調理、加工などで生成する危害要因

フラン、トランス脂肪酸

一方、有害化学物質のリスク管理と施策の実施に向けて、サーベイランス・モニタリングを実施することが必要であり、2006〜2010年度の5年間における実施計画が定められました。

調査すべき有害化学物質は、上記の危害要因とした化学物質の含有量、摂取量、これまでの実態調査の実施状況、調査目的に合致した分析法の有無を考慮して選別され、優先度として「A:期間内に実施」、「B:期間内に可能な範囲で実施」の2区分の分類が決定されました。

農業環境技術研究所では、今回提示された有害化学物質の中で、ヒ素、カドミウム、ダイオキシン類、残留農薬に関する分析法の開発、土壌中での分布実態の解析、作物への吸収移行性の解明、土壌におけるリスク管理技術の開発など、多くの研究課題を実施しています。これらの研究は化学物質のリスク管理に深く関わっており、食品安全行政に貢献できるものと考えています。

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