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情報:農業と環境 No.78 (2006.10)
独立行政法人農業環境技術研究所

論文の紹介: 好気的環境にある陸生植物からメタンが発生している

Methane Emissions from Terrestrial Plants under Aerobic Conditions.
Frank Keppler, John T. G. Hamilton, Marc Braß and Thomas Röckmann
Nature 439, 187-191 (2006)

メタンは主要な温室効果ガスの一つである。大気中の濃度は二酸化炭素の200分の1程度であるが、単位濃度あたりの温室効果は二酸化炭素の約20倍であるので、メタンが地球に及ぼしている温室効果は二酸化炭素のほぼ1割に当たる。全世界の年間メタン発生量は 500〜600×1012 g と推定されており、このうち水田や反芻(はんすう)家畜など農業起源の発生量は 100〜200×1012 g 程度と考えられている。そのため、農業環境技術研究所では農業起源のメタン発生量の予測や削減技術に関する研究を進めている。自然起源のメタンのほとんどは、湿地や湖沼のような嫌気的 (酸素が乏しい) 環境で発生すると考えられてきた。ところが今年に入って、好気的環境にある陸生植物からもメタンが発生するという興味深い実験結果が発表された。

本論文の実験自体は比較的簡単なものである。トウヒ、サトウキビなど10種類以上の植物から切り取った葉をガラス容器に封入し、暗所に16時間置いた後に容器内の空気を分析したところ、実験したすべての植物で容器内のメタンが増加しており、葉からメタンが発生したことがわかった。葉の乾物重・時間あたりのメタン発生量は、30 ℃でおよそ 0.2〜3×10-9 g / g乾物・時 だったが、温度が 70 ℃まで 10 ℃上がるごとにほぼ2倍になり、さらに葉を日に当てると大幅に増加することがわかった。また、殺菌した葉を使った場合でも同様にメタンが発生し、微生物は関与していないことが示された。

このメタン発生のメカニズムについて、著者らは、植物から発生したメタンの炭素の安定同位体 (13C) の割合などから、植物の細胞壁を形成しているペクチンが関与しているのではないかと推測している。実際、リンゴから精製したペクチンを使って同様な実験をしたところ、ペクチンからメタンが発生した。ただし、メタン発生のメカニズムを解明するためには今後さらに詳細な研究が必要としている。

彼らは、生きた植物体からもメタンが発生するかどうかを調べるため、トウヒ、コムギなど10種類近くの植物にガラス製チャンバーをかぶせて、チャンバー内の空気のメタン濃度の変化を観察した。その結果、実験を行ったすべての植物からメタンが発生し、しかも植物の乾物重・時間あたりのメタン発生量は 12〜370×10-9 g / g乾物・時で、葉だけの結果よりも1〜2桁大きかった。さらに、植物を日に当てるとメタン発生速度が3〜5倍に増加した。

これらの実験結果をもとに、熱帯森林、温帯森林などの植生タイプごとの年間のメタン発生量を概算すると、陸生植物からのメタン発生量は、全世界のメタン発生量の 10〜30 %に相当する 62〜236×1012 g と推定された。推定方法は非常に大まかであるが、今までメタンの発生源とは見なされていなかった陸生植物から、相当量のメタンが発生していることは確からしい。

本論文では水稲についての実験は行われていないが、水稲からのメタン発生量を、ここで試算してみよう。日光下の植物体からのメタン発生量を 800×10-9 g / g乾物・時 (本論文の実験で得られた最大値に相当) と仮定する。出穂期 (8月前半) の水稲の面積当たり乾物重は 1,200 g/ m2 程度なので、水稲から発生するメタンは面積当たりで 1mg / m2・時 程度と推定される。一方、農業環境技術研究所の実験水田の例では、この時期の日中には 50 mg / m2・時 程度のメタン発生が観測されている。したがって、水田の場合は、土壌内で生成されるメタンがほとんどを占め、水稲から直接発生するメタンの割合はごく小さいと考えられる。

(物質循環研究領域 麓  多門

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