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情報:農業と環境 No.79 (2006.11)
独立行政法人農業環境技術研究所

農業環境技術研究所 研究成果発表会 2006: 「農業と環境を考える」 の報告

さる9月28日、農業環境技術研究所成果発表会2006が開催されました。「農業と環境を考える」 をテーマに、第 I 期の5年間に得られた主要な成果を講演とポスター発表で紹介し、第 II 期における研究の発展につなげていくことをめざして、東京の新宿明治安田生命ホールにおいて開催されました。研究成果発表会は研究所の独法化後2年ごとに開催されており、3回目となる今回は、第 I 期のまとめとなることから、多くの一般の方に、農業と環境に対する理解を深めていただき、ご意見をいただきたいため、はじめて東京で開催したものです。

すでに、先月の 「情報:農業と環境」(78号) で、講演の要旨とポスターの内容 をお知らせしていますので、ここでは当日の論議の内容と参加者へのアンケートの結果を報告します。

なお、当日の参加者総数は221名で、農林水産省から15名、独立行政法人から11名、都道府県から15名、大学から23名、企業などから56名、マスコミ関係者10名、個人を含むその他の方26名に参加いただきました。農業環境技術研究所からの参加は65名でした。

講演者と講演題目

(1) 石 弘之 (北海道大学公共政策大学院): 農業が変えた地球の環境−環境史の視点から

(2) 山本勝利 (生物多様性研究領域): 豊かな生物相をはぐくむ農業を探る

(3) 與語靖洋 (有機化学物質研究領域): 大気中に広がる農薬−その拡散と制御を考える−

(4) 新藤純子 (物質循環研究領域): 東アジアの食料の生産と消費拡大が水質を変える

(5) 長谷川利拡 (大気環境研究領域): 大気CO増加、温暖化で水稲の生育、収量はどうなる

(6) 谷山一郎 (農業環境インベントリーセンター): 農業を巡る環境の情報を発信する

ポスターの表題

(1) 農業環境技術研究所の第2期中期計画の概要と組織

(2) 植物の力で農耕地のPOPs(残留性有機汚染物質)リスクを低減する

(3) 農薬の河川生態系への影響を調べるための試験法開発

(4) 塩化第二鉄を用いた化学洗浄法によるカドミウム汚染水田の修復

(5) カドミウム汚染土壌のファイトレメディエーション

(6) 農業集水域における窒素負荷が河川水質に与える影響は地域によって異なる

(7) 複合分解微生物系と木質炭化素材を組み合わせた有機汚染物質の原位置バイオレメディエーション

(8) 環境DNAで土壌くん蒸処理の微生物への影響を見る

(9) 遺伝子組換えダイズは近縁な野生種ツルマメと交雑するか?

(10) 外来植物のリスク評価と蔓延防止策

(11) チャノコカクモンハマキの交信撹乱剤に対する抵抗性系統の確立と反応性

(12) 農業水利用を考慮した新しい大陸スケールの水循環モデルの開発

(13) 温暖化によるイネ害虫発生量の増加

(14) 温暖化したら食料生産はどうなる?

(15) 農耕地からの亜酸化窒素の排出係数は現在のIPCCデフォルト値よりも低い

(16) 主要穀物に含まれる人工放射性核種

(17) GPS(全地球測位システム)と無線通信で農地周辺の野生動物の行動を調べる

(18) 衛星搭載レーダと地理情報を用いて確実に精度良く水稲作付地を検出する

論議の内容

上記の講演に対して、会場ないしはアンケートで出されたおもな質問を、以下に示します。

(1) 休耕田は将来復田するのでしょうが、休耕時には田面に水を引いているのですか。

(2) 里山や水田を誰が管理するのかが、最大の問題と思います。具体的に考えておられることがありましたら聞かせて下さい。

(3) 粒子タイプで大気に拡散する場合、農薬そのものの物性は影響しますか。POPsも検出されるそうですが、どの様な性質のものが大気で拡散しやすいと思われますか。

(4) 散布量のどの位の割合がドリフトしますか。また、同一成分でも製造タイプにより、スプレードリフトは異なりますか。

(5) 窒素負荷予測に関して、貿易が不確定要素になっているとのことですが、将来モデルに貿易要素を取りこむ予定はありますか。

(6) 窒素負荷量が増加した時の地下水濃度を推定していましたが、その過程は複雑ですか。

(7) 窒素と同様にリンやカリについても同様の問題があるのでしょうか。

(8) 中国東部において窒素が多量に残留することで、河川のみならず東シナ海の窒素濃度への影響はあるのですか。

(9) 温暖化実験の際に、コメの食味に関するデータはとられていますか。

(10) CO濃度上昇に伴って、光合成等に影響が出てくるようですが、その濃度段階はわかっていますか。

以上のご質問については、近々、当研究所のWebサイト 内で回答する予定で準備を進めています。

アンケートの結果

当日参加されたうちの90名の方からアンケートへの回答をいただきました。

(1) 「農業環境に関するテーマのうち、関心のあるもの」(上記講演、ポスター発表に関係す17項目から選択、複数回答あり)については、地球温暖化 (48%)、環境負荷 (41%)、農薬 (40%)、食糧生産 (38%)、生物多様性 (37%) が、回答の上位を占めました。

(2) 「講演の中で、特に興味をもったのは」(複数回答あり)に対しては、(1)への回答も反映してか、回答した方の 67%が「大気CO増加、温暖化で水稲の生育、収量はどうなる」をあげられました。

(3) 「ポスター発表の中で、特に興味をもったのは」(複数回答あり)に対しても同様に「温暖化したら食料生産はどうなる?」 (28%) が多く、「植物の力で農耕地のPOPs(残留性有機汚染物質)リスクを低減する」 (21%)、「カドミウム汚染土壌のファイトレメディエーション」 (20%) が続きました。

(4) 「成果発表に関しての感想、意見等」にご記入いただいた内容は、以下のようにまとめられました。

東京で開催したことがよかった」、「とても良い内容でした、日本にとって非常に重要な研究をされていることがわかりました」、「難しい課題、成果を理解しやすく説明されていると思う」 などの好意的なご意見を多くいただきました。

また、「今後は成果発表会を年1回行う予定はありますか」、「全国各地で実施して広く活動を広報してはどうか」 という提案とともに、「時間が短かった」、「視点が狭い」、「世界をリードする先端的なものが欠けていた」 という要望や厳しいご意見もありました。

今回の成果発表会は、一般の方に理解いただくことを主目的に、わかりやすく発表することを心がけました。もちろん、いずれの意見ももっとものことですので、今後の開催の参考にさせていただきます。

最後に、「インベントリーのようなものは農環研のようなところでなければできない仕事です。インベントリーセンターを訪問したい」という意見をいただきました。当研究所は、Webサイト で、研究成果やデータベースなど、多くの情報を提供していますが、年1回(4月の科学技術週間のなかの1日)、研究所を一般に公開しています(2006年4月の一般公開の報告)。また、希望される日時や人数を前もってお知らせいただければ、いつでも見学できます。今後とも当研究所の研究活動に関するご意見をいただきますようお願いいたします。

当日の写真

壇上の石 弘之教授

写真1 特別講演: 「農業が変えた地球の環境−環境史の視点から」 を話された石 弘之教授

ポスター発表のようす

写真2 当日行われたポスターセッションのようす

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