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情報:農業と環境 No.79 (2006.11)
独立行政法人農業環境技術研究所

第6回有機化学物質研究会 「化学物質の大気中への飛散・揮散問題とその対策」が開催された

わたしたちを取り巻く大気環境には、さまざまな有機化学物質が漂流しています。農業の場面では、散布した農薬が漂流飛散(以後ドリフトといいます)して、作業者や作物、さらには周辺住民や環境に影響することが懸念されています。本年の5月29日から施行された農薬の作物残留に関するポジティブリスト制度(わたしたちが食べる作物に対して海外で使用されるものを含むすべての農薬について残留基準を設定)も、そのことと強く関連しています。

10月5日に、第6回有機化学物質研究会が、「化学物質の大気中への飛散・揮散問題とその対策」をテーマとして、農業環境技術研究所で開催されました。具体的には、大気中の化学物質のリスク管理や農薬のドリフトに関する国内外の取り組みと問題点を整理するとともに、今後の研究方向を検討しました。5名の講師の方々に講演していただき、その後グループに分かれて議論しました。

参加者は、都道府県の農業試験場、行政、植物防疫関係団体、農薬メーカーなど約120名でした。

開催日時: 平成18年10月5日(木)

開催場所: 農業環境技術研究所 大会議室ほか

参加者数: 119名 (独立行政法人:5名、大学:2名、公立農試:39名、行政:4名、関連団体:31名、農環研:38名)

講演の内容

講演1では、「大気汚染防止法による化学物質対策について」の演題で、環境省の木田正憲氏から話題提供がありました。まず有機大気汚染物質対策の経緯、中央環境審議会の中間答申、大気汚染防止法、優先して取り組むべき有害大気汚染物質のリストなどについて説明がありました。農薬に関しては、土壌くん蒸剤が揮発性有機化学物質(VOC)の一種であることや、VOCと浮遊粒子状物質や光化学オキシダントとの関連性を報告しました。

講演2では、「有機化学物質の環境排出と大気中挙動」の演題で、国立環境研究所の川本克也氏から話題提供がありました。化学物質による地球規模の大気汚染については、環境残留性有機汚染物質(いわゆるPOPs)について、構造が近い化合物(異性体)でも移動距離が大きく異なることを伝えました。農薬は、VOCからPOPsのような不揮発性物質まで幅が広く、化学物質の影響を受ける対象によって暴露評価の方法が大きく異なることを報告しました。

講演3では、「大気−植生LESモデルによるドリフト研究への取り組み」の演題で、中央農業総合研究センターの井上君夫氏が、森林総合研究所の渡辺力氏らと協力して取り組んでいる研究を紹介しました。LESとはLarge Eddy Simulation、つまり大きな渦のシミュレーションのことです。無人ヘリコプターによる農薬散布を例に、散布された農薬(液滴)がどのように動くかを予測した結果を示しました。

講演4では、「農薬のスプレードリフト対策への取り組み」の演題で、全国農業協同組合連合会・営農・技術センターの川幡寛氏が、全農で取り組んできたスプレードリフトの現地実証試験の結果を紹介しました。スピードスプレーヤ、背負い式動噴、セット動噴、無人ヘリコプターでの散布によって周辺作物への作物残留がどうなるか、またドリフト低減ノズル、ネット、べたがけ資材の有効性も示しました。

講演5では、「ベーパードリフトに関する農薬研究の現状と取り組みについて」の演題で、農業環境技術研究所の小原裕三氏が、ベーパードリフトについて各種の試験事例を紹介しました。パッシブサンプラーという簡易な大気捕集装置を用いて東アジアの大気をモニタリングしたこと、大気中の農薬はガス状態以外にも雲粒や雨滴に吸着しているものがあること、地球規模の農薬の移動が「バッタ効果」により説明できることなどを示しました。

グループディスカッション

講演会後に、3グループに分かれてグループディスカッションを行いました。スプレードリフトのグループでは、ドリフト低減ノズル、ネット、べたがけ資材以外の方法として、静電スプレー、エアカーテン、防薬用の植樹などが紹介されました。また粉剤散布におけるドリフトの重要性も示されました。ベーパードリフトと大気中の化学物質のグループでは、ベーパードリフトの試験方法、長・短距離移動における評価項目などの研究上の課題と、薬液タンクの洗浄方法や黄砂の中の農薬など現場の問題について議論されました。ドリフトモデルのグループでは、モデルが現場でどのように使われるか、さらには製剤や粉剤の扱いについて話し合われました。

総合討論

最後に総合討論が行われ、大気中の有機化学物質の挙動についてさらに議論が深められるとともに、わが国におけるこれらの研究の緊急性・重要性が再認識されました。

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