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情報:農業と環境 No.80 (2006.12)
独立行政法人農業環境技術研究所

農業環境技術研究所リサーチプロジェクト(RP)の紹介(11) 温室効果ガスRP

農業環境技術研究所は、中期目標期間 (平成18−22年度) における研究・技術開発を効率的に推進するため、15のリサーチプロジェクト(RP)を設けています (詳細は、情報:農業と環境 No.77農業環境技術研究所リサーチプロジェクト(RP)の紹介(1) を参照してください)。

ここでは、温室効果ガスリサーチプロジェクトについて、プロジェクトリーダーが紹介します。

温室効果ガスリサーチプロジェクト

急激な人間活動の拡大は、二酸化炭素 (CO)、メタン (CH)、亜酸化窒素 (NO:一酸化二窒素)などの大気中温室効果ガス濃度を増加させています。地球温暖化に対するそれぞれの温室効果ガスの効果は、大気中の濃度と地表から放射される赤外線の吸収効率から求められます。産業革命以降における地球温暖化への寄与率は、COが全体の約64%と最大で、CHとNOも、それぞれ全体の約20および6%を占めています。

農耕地と農業活動は、多くの場合、これらの温室効果ガスの発生源となっています。とくに、CHとNOについては、水田、反すう動物の消化活動、畜産廃棄物、窒素肥料の施用などが主要な発生源と考えられています。したがって、過去における世界的な農業活動の発展と土地利用の変化は、このような農業が関与する発生源からの温室効果ガス発生量を増加させ、地球温暖化に寄与してきたことが明らかです。

温室効果ガスRPでは、農耕地と農業活動から発生する温室効果ガスおよび関連する微量ガスについて、以下の手法を用いて研究を進めています(図1)。

温室効果ガスRPの研究手法(圃場試験、室内試験、データ解析とモデル)(写真)

図1. 温室効果ガスRPの研究手法

温室効果ガスRPでは、これらの手法を用いて、農耕地からの温室効果ガス発生量評価を精緻化するとともに、広域での発生量評価手法の開発をめざしています。さらに、農耕地における栽培・土壌管理技術による温室効果ガス発生抑制効果を定量的に評価し、わが国とアジア地域の農耕地における効率的な負荷軽減技術体系を提示することを目標としています。これらの研究成果により、地球環境変動の国際的な取り組みである、気候変動に関する政府間パネル (IPCC) や地球圏-生物圏国際共同研究計画 (IGBP) などでの発生量評価やその変動要因に関する議論、国連気候変動枠組み条約 (UNFCCC) と京都議定書による温室効果ガス排出量報告と排出削減策の策定に貢献したいと考えています。

温室効果ガスRPで取り組んでいる、現在の研究課題は以下の通りです。

(1)簡易型モニタリングシステムの開発

農耕地からの温室効果ガスの発生を効率的に抑制できる技術体系を提示するためには、できるだけ多くの圃場試験を行うことが必要です。とくに、時間変動の大きい温室効果ガスの発生を精度よく測定するために、連続モニタリングを実施することが望まれます。この目的のために、農業環境技術研究所では、連続自動モニタリングシステムを設置した温室効果ガス発生制御施設を持っていますが、これ以外では、連続モニタリングの実施は困難です。そこで、多地点の圃場での連続モニタリングデータの集積を図るため、1日あたり4〜10回のフラックス観測を可能にする、自動開閉チャンバーと、その動作に同期したガス採取ユニットからなる簡易型温室効果ガスフラックスモニタリングシステムを開発しています。このシステムと、これまでに開発された温室効果ガス3成分同時分析計を用いた計測システムを開発します。

(2)栽培・土壌管理技術による温室効果ガス発生抑制効果の定量評価

農耕地からの温室効果ガスの発生を抑制する技術の効果を定量的に評価するための圃場試験を行っています。現在のターゲットは、わが国の水田において広く行われている田畑輪換と中国における有機物や施肥管理です。農業環境技術研究所の温室効果ガス発生制御施設では、水稲および2種類の転換畑(陸稲単作および大豆−小麦二毛作)栽培を行い、CO、CHおよびNOフラックスの自動連続計測を行うとともに、農耕地における炭素収支を計測しています。これまでに、水田と転換畑ではCHとNO発生のトレードオフがあること、田畑輪換サイクル全体では連作水田よりもガス発生量が少ないことを明らかにしました (図2)。農業環境技術研究所での試験を継続し、CO収支も含めたより詳細なデータを得るとともに、同様の試験を新潟県、山形県、熊本県でも実施して、地域による違いを明らかにします。また、中国江蘇省および遼寧省において、それぞれ、水稲−小麦作付け体系における有機物管理と畑栽培における硝化抑制剤によるCH と、NOの発生制御試験を行っています。

水田と転換畑からのメタンと亜酸化窒素の発生(グラフ)

図2. 水田と転換畑からのメタンと亜酸化窒素の発生

(3)温室効果ガス発生データベース構築と広域予測モデルの開発

既存の温室効果ガス発生データを収集し、日本およびアジアを対象にした温室効果ガスの総合収支データベースを構築し、耕作の実態に基づいた温室効果ガス収支の算定手法を開発します。これらの成果は、これまでにも IPCCガイドラインのデフォルト値として採用されたり、わが国の温室効果ガスインベントリーの算定に寄与したりしてきました。現在、早期に対応が求められている、わが国の施肥起源のNOデータベースの整備と水田からのCHデータベースの精緻化に取り組んでいます。今後、アジア域での温室効果ガス発生総合データベースに発展させ、その解析を行う計画です。さらに、圃場試験データを用いて温室効果ガス発生量を予測するためのプロセスモデルの開発と検証を進め、わが国とアジア地域における適用が可能となるようにモデルを改良しています。同時に行っている、気候、土壌、耕作管理など、活動量データベースの整備と合わせて、改良されたモデルを用いて、わが国とアジア域での温室効果ガス発生量広域評価を行う計画です。

(4)高CO濃度・温暖化環境が水田からのCH発生に及ぼす影響の解明と予測

今後予想される大気の高CO濃度と温暖化環境は、水田からのCH発生を助長すると考えられます。本課題では、その機構を解明するとともに、その効果が土壌タイプや品種などによってどの程度変動するかをFACE(開放系大気CO増加実験)や閉鎖型環境制御チャンバーを用いて実験的に明らかにします。以上の結果を基に、水田生態系の炭素窒素循環を記述する生物地球化学的モデルを高度化し、高CO・温暖化環境における水田からのCH発生量の予測と抑制技術の評価を行います。

温室効果ガスRPリーダー 八木 一行
物質循環研究領域 主任研究員)

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