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情報:農業と環境 No.81 (2007.1)
独立行政法人農業環境技術研究所

農業環境技術研究所リサーチプロジェクト(RP)の紹介(12) 水田生物多様性RP

農業環境技術研究所は、中期目標期間 (平成18−22年度) における研究・技術開発を効率的に推進するため、15のリサーチプロジェクト(RP)を設けています (詳細は、情報:農業と環境 No.77農業環境技術研究所リサーチプロジェクト(RP)の紹介(1) を参照してください)。

ここでは、水田生物多様性リサーチプロジェクトについて、プロジェクトリーダーが紹介します。

水田生物多様性リサーチプロジェクト

水田を中心とした農村には、私たち日本人には身近な生き物たちがたくさん生息しています。これは、わが国の農村環境が、2000年以上にわたる稲作を中心とした農業によって形成・維持されてきた「二次的自然」であるからだと言われています。しかしながら、20世紀後半の宅地その他の開発による農地の改廃、化学資材の使用や転作などの農業生産様式の変化、農家の減少や高齢化による耕作放棄の進行、さらには、さまざまな外来生物の侵入などによって農村の環境は劇的に変化し、現在、農村の生物多様性はさまざまな危機に直面しています。

こうした中、農村の自然環境を保全しつつ持続的な農業の発展を図る視点から、農地、水、環境の保全・向上施策の導入や農業者規範の策定が進められています。また、国際的にも、農業と環境との関係を客観的に評価する試みが進められ、中でも農業と生物多様性との関係が評価指標として注目されています。

これらのことから、水田生物多様性リサーチプロジェクトにおいては、わが国の農村環境の中核をなす水田およびその周辺域を対象に、生物の多様性を解明するとともに、保全・管理するための農業活動を提示することを目的として、次のような研究を行っています。

(1) 水田の休耕や転作、周辺植生の管理や景観構造の変化が、植物群集、チョウ類、鳥類に及ぼす影響を調査し、植生の分布と他の生物の生息との関連を解析します。

(2) ため池の管理や周辺の環境、ため池間の距離がトンボ類などの生息に及ぼす影響を調べます。

(3) 水田と周辺の環境変化が生物に及ぼす影響を予測するモデルを作り、農業活動の変化にともなう生物多様性の変動を解析・予測します。

一口に 「水田」 といっても、大河川沿いの大規模な水田、台地や丘陵地の谷津田(やつだ)、山地斜面の棚田などさまざまなタイプがあります (図1)。そこには、田面(でんめん)だけでなく、畦畔(けいはん)やのり面、水路、森林など、さまざまな緑地が存在し、多くの生物種に生息空間を提供しています (図2)。

山間部の水田、棚田、扇状地の水田、谷津田、大河川沿いの水田、干拓地(写真)

図1 水田を中心とした農村景観の多様性

谷津田(原図:椎名雅博)とさまざまな生息空間の生物(写真)

図2 谷津田における景観の構造とさまざまな生物生息空間

このようなさまざまな緑地のあり方や組み合わせ、すなわち景観の構造は水田のタイプや地域によって異なることから、そこに生息する生物相にも違いが生じます。そこで農業環境技術研究所では、農業景観に関する調査・情報システム (Rural Landscape Information System / RuLIS、図3) により全国の農業生態系を60の景観タイプに分類し、タイプごとに、農業をはじめとする人間活動が生物多様性に及ぼす影響を、農法の変化、土地利用の変化、景観構造の変化という視点から研究を進めています。たとえば景観構造と生物相の関係については、利根川下流の台地谷津田景観では、谷底(こくてい)の水田と谷壁(こくへき)の森林との境界領域においてチョウ類の種数が多いことがわかっています。そこで、この水田−森林の境界領域の量を RuLIS を用いて推定し、チョウ類の生息ポテンシャルを評価するとともに、その変化要因の解明を行っています (図4)。

農業生態系の分類(全国マップ)、利根川流域の水田景観、利根川流域のモニタリング地区(流域マップ)

図3 RuLIS (農村景観の調査・情報システム) による生物多様性のモニタリングと解析

農業生態系の分類(全国マップ)、利根川流域の水田景観、利根川流域のモニタリング地区(流域マップ)

図4 利根川下流域の台地谷津田景観 (クラス67) を対象としたチョウ類の生息ポテンシャル評価
  (水田と森林の境界領域の推定とその変化の解析)

水田生物多様性RPリーダー 山本 勝利
生物多様性研究領域 主任研究員)

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