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情報:農業と環境 No.81 (2007.1)
独立行政法人農業環境技術研究所

本の紹介 217: はじめての環境経済学、 ジェフリー・ヒール 著、 細田衛士・大沼あゆみ・赤尾健一 訳、 東洋経済新報社 (2005) ISBN4-492-31347-8 C3033

「私たちは人間社会の自然基盤を破壊し続けることなく生活の糧を得ることをどのようにして保証できるのだろうか?」

「どのようにしたら生態的基盤を損なうことなく経済活動を行うことができるのだろうか?」

このような問いかけに、本書は、原著のタイトル “Nature and the Marketplace” が示すように、自然システムとプロセスが人間社会にいかに恩恵を与えているかを探求するとともに、人間が社会の基盤である自然システムに与える影響を緩和する手法としての「市場」の有効性を中心に議論しています。私たちは、本書を一読することによって、保全することが利益をもたらす手段として、自然資本が提供するサービスについても「市場」を創設することの重要性、換言するならば、経済的インセンティブの果たす役割とその重要性を理解することができます。

本書は、世界を代表する環境資源経済学者が、“Economic Theory and Exhaustible Resources”, “Valuing the Future: Economic Theory and Sustainability”, “Valuing Ecosystem Services” など、これまでに著した数々の環境資源経済学に関する名著に新たな一冊を加えるものです。環境経済学の重要な概念に、厳密に経済学的・経営学的観点からアプローチしていると著者が述べるように、環境経済学の本格的な書ですが、関連する経済学の基礎知識を、章の一つをさいて、わかりやすく、ていねいに解説していますので、環境経済学の入門書としても好個の書です。一読をおすすめしたい1冊です。

目次

日本語版への序文

はじめに

第1章 社会基盤と地球管理

人間活動の地球へのインパクト

地球規模の炭素循環

窒素循環

オゾン層

人間社会への影響

生物多様性

私たちの生態的基盤の破壊 —— 教訓とすべき例

バイオスフィア2

第1章のまとめ

第2章 経済学の基礎

私的費用・社会的費用と便益

公共財

課税と数量割当

熱帯雨林保全の費用・便益およびインセンティブ

第2章のまとめ

第3章 市場と生態系

集水域

集水域が提供するサービスの代替可能性

キャッツキル集水域

スターリング森林

証券化

民営化

市場と集水域

第3章のまとめ

第4章 エコツーリズム

第4章のまとめ

第5章 京都議定書と森林・炭素

公共財としての森林サービス

炭素吸着の市場

アメリカ二酸化硫黄市場

京都議定書

京都議定書と森林経済学

保全か再植林か

京都ターゲット

第6章 生物多様性

生物多様性と生産性

生物多様性と保険

生物多様性と遺伝的知識

生物多様性と生態系サービス

生物多様性と市場

生態系サービス

第6章のまとめ

第7章 環境評価

非市場評価

非限界的価値

第7章のまとめ

第8章 政策と制度

組織

所有権

課税と許可証取引制度

公共財

規制

公共財の購入

国民所得

第8章のまとめ

第9章 持続可能性

将来の割引と評価

市場の力と持続可能性

第10章 本書のまとめ

訳者あとがき

参考文献

索引

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