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情報:農業と環境 No.82 (2007.2)
独立行政法人農業環境技術研究所

農業環境技術研究所リサーチプロジェクト(RP)の紹介(15) 遺伝子組換え生物生態影響RP

農業環境技術研究所は、中期目標期間 (平成18−22年度) における研究・技術開発を効率的に推進するため、15のリサーチプロジェクト(RP)を設けています (詳細は、情報:農業と環境 No.77農業環境技術研究所リサーチプロジェクト(RP)の紹介(1) を参照してください)。

ここでは、遺伝子組換え生物生態影響リサーチプロジェクトについて、プロジェクトリーダーが紹介します。

遺伝子組換え生物生態影響リサーチプロジェクト

世界で遺伝子組換え作物が栽培されている面積は年々増加しています。2006年には1億ヘクタールの大台にのり、日本の面積の2.5倍以上になりました。いまのところ日本では、遺伝子組換え作物の商業栽培は行われていませんが、それらの作物が農業生態系に与える影響を十分に把握するため、遺伝子組換え生物生態影響リサーチプロジェクトは、次のような研究を行っています。

(1) 遺伝子組換え作物から近縁野生種への遺伝子の移動 (遺伝子流動) を調べています。遺伝子組換えダイズが栽培された場合、近縁野生種であるツルマメと交雑する可能性があります。そこで、日本で栽培が許可されている遺伝子組換え除草剤耐性ダイズを栽培し、そこから5段階の距離にツルマメを栽培して、両種の距離に応じてどのくらい交雑が生じるのかを調査しています。また、交雑に関わる開花期の同調性や、訪花昆虫の豊富さなど、交雑の要因についても研究しています。

2006年の栽培実験のようす(ほ場写真)

(2) 遺伝子組換え作物から遺伝子を組み換えていない作物への遺伝子の移動 (遺伝子流動) を調べています。遺伝子組換えトウモロコシやイネが栽培された場合、それらの花粉が飛散して、周辺のほ場に栽培されている遺伝子を組み換えていない同種の作物と交雑する可能性があります。そこで、花粉源から花粉を受ける個体までの距離に応じてどのくらい花粉が飛ぶのか、どのくらい交雑が起こるのかを調べています。また、交雑に関わる開花期の気象条件(風向、風速など)や花粉源や受粉側のほ場における花粉密度などのデータを集め、交雑率予測モデルの作成や物理的な障壁によって交雑を抑制する技術の開発などを行っています。大規模なほ場実験については、(独)種苗管理センターの嬬恋農場、北海道農業研究センターや(独)家畜改良センター新冠牧場と共同研究も行っています。

黄色粒トウモロコシと白色粒トウモロコシ、および、黄色粒トウモロコシとの交雑で一部の粒が黄色くなった白色粒トウモロコシ(雌穂の写真)

黄色粒トウモロコシの花粉が飛んで、白色粒トウモロコシの雌しべにつくと、トウモロコシの粒が黄色になります。このキセニアという現象を利用することによって、遺伝子を組換えていない市販のトウモロコシを用いて簡単に交雑率を調べることができます。花粉の形や飛散特性については、遺伝子組換え植物も組換えでない植物も同等であると考えられるためです。

ウルチ米とモチ米を栽培した水田と花粉採集器(ほ場の写真) ウルチ米とモチ米の花粉(顕微鏡写真)

トウモロコシと同じようにイネについてもキセニアにより市販の遺伝子を組み換えていない品種(ウルチ米とモチ米)を用いて交雑の様子を調べることができます。イネの場合、採集後、ヨード・ヨードカリ溶液によって花粉を染めることでウルチ米とモチ米の花粉を識別することができます。この手法を用いると、ウルチ米の花粉がどこまで飛んだかという解析ができます。

(3) 遺伝子組換え作物をモニタリング しています。現在、日本国内のいくつかの輸入港でこぼれ落ち種子に由来する遺伝子組換えナタネの生育が報告されています。遺伝子組換え生物生態影響リサーチプロジェクトでは、鹿島港周辺に定点観測地をもうけ、遺伝子組換えナタネが周辺の雑草群落に侵入したり分布を拡大したりする可能性があるかどうかを確認するため、セイヨウナタネの発生消長を調査しています。

路側に生育しているセイヨウナタネ(写真)

また、これまでの成果として、2001年から2005年まで、遺伝子組換えダイズと遺伝子組換えナタネを4年間栽培し、ほ場内の雑草、土壌微生物や昆虫などをモニタリングしました。遺伝子を組み換えていないダイズやセイヨウナタネのデータと比較したところ、雑草、土壌微生物、昆虫相、後作 (遺伝子組換え作物を栽培したほ場で次年度に栽培した作物) の生育に影響はないという結果を得ました。この結果は農林水産省農林水産技術会議事務局技術安全課のWebページで公表されています( (該当するページが見つかりません。2015年1月) )。

このような研究の成果は、遺伝子組換え作物を安全に安心して使うための技術開発や遺伝子組換え作物を栽培する農家と組換えでない作物を栽培する農家が共存していくためのルールを作るための基礎データとして有効に使われています。

遺伝子組換え生物生態影響RPリーダー 松尾 和人

(2014年4月より 遺伝子組換え生物・外来生物影響評価RP リーダー 芝池 博幸)

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