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情報:農業と環境 No.82 (2007.2)
独立行政法人農業環境技術研究所

本の紹介 221: アジア環境白書 2006/07、 日本環境会議 編、 東洋経済新報社 (2006) ISBN4-492-44328-2 C3033

アジア地域における貿易を通じた各国の経済的相互依存関係が強化され、経済の急成長がみられる。一方で公害問題や深刻な環境破壊が起きており、中国をはじめとしたアジア地域での水・大気環境の悪化や有害物質による健康被害なども指摘され、地球環境保全を目指した持続可能な経済社会の構築が迫られている。問題の重要性に鑑み、各種のNGO、NPO及びこれらの活動を支援する研究者や専門家などによる 「環境協力ネットワークづくり」 が推進されてきている。本書は、1997年12月に創刊されたNGO版「アジア環境白書」シリーズの第4弾として日本環境会議から出版された。

日本環境会議は公害問題や環境問題の解決をめざして、各分野の研究者、専門家、実務家、弁護士、医師、ジャーナリスト、市民運動や住民運動のリーダー、一般市民など約400名の会員によって組織され、とくに 「地球環境保全はアジアから!」 の熱意から各種の活動が行われている。「アジア環境白書」 は、第 I 部: テーマ編、第II部: 各国・地域編、第III部: データ解説編から構成されている。テーマ編では時々のトピックとして、第1版(1997/98)で 「圧縮型工業化と爆発的都市化、加速するモータリゼーション、広がる環境汚染と健康被害、問われる生物多様性の保全と利用」、第2版(2001/01)で 「問われるエネルギー政策の選択、進む鉱山開発と繰り返される鉱害、さまよう廃棄物、海洋環境の破壊と保全、環境保全と地方自治」、第3版(2003/04)で 「軍事活動と環境問題、環境と貿易、さまよう廃棄物、農業・食糧と環境、森林と水田の生物多様性」を取り上げている。

これまでの日本環境会議の活動と 「アジア環境白書」 に対し多くの賞が授与されている。今回の第4版(2006/07)は日本学術振興会などの公的研究費も投入され、各種の調査・研究に基づいて編集・出版された。第4版のテーマ編は、次の3項目に焦点を合わせている。 (1)ODA・国際金融と環境協力について、OECDに加盟していないアジア諸国における共通の環境社会配慮政策の整備の必要性、(2)公害被害者救済問題について、韓国、中国、インドネシア、マレーシアにおける公害被害者の司法的救済の取り組み状況、(3)電子・電機部品の廃棄物の処理・管理について、適切な国際的リサイクル・流通を実現するための制度の構築・運営を図ることの提案である。

各国・地域編では、多くのデータを示し、発生している大気・水質汚染や生物多様性破壊の状況などを説明し、そして、土地利用や温暖化防止などの環境政策、環境行政の取り組みの方向性を概観している。急激な経済発展に伴う環境汚染はヒトの健康を蝕んでおり、循環型社会を構築することの重要性を述べている。

データ解説編では、アジア地域の環境問題に係わる最新データをもとに、基本となる情報と解決すべき課題が提起されている。本書全体を通し、各国が抱える深刻な環境問題の実態を正確に把握すること、さらに技術的な解決方策や積極的な環境政策を導入して、地球環境に配慮した適正な経済活動を強く求めている。

本書には、アジア地域における環境問題を理解する上で必要な情報が集められており、一読をおすすめする。

目次

まえがき

序文 資源節約型・資源循環型の経済社会への転換を求めて

第 I 部 テーマ編

第1章 環境社会配慮と環境ODAはどこまで進んだのか

はじめに: 1990年代の「ODAと環境」の変化/環境社会配慮政策の改善は何をもたらしたか/環境ODAのアプローチの到達点と課題/ODA・国際開発金融を取り巻く環境の変化/持続可能な発展に資するODA・国際開発金融に向けて

第2章 公害被害者の救済をめざして

はじめに/立ち上がりつつある被害者たち:韓国,中国で進む訴訟の支援/被害者救済に向けた長い道のり:ボパール,ブキメラの現在/救済を前進させるための条件は何か

第3章 急がれるe-wasteの適正処理

e-wasteとは/電子・電機製品の生産・消費・廃棄/e-wasteのリュース・リサイクル技術/e-wasteの回収・リサイクル/中古および廃電子・電機製品の貿易/適切な管理に向けて

第 II 部 各国・地域編

第1章 シンガポール 政府主導型環境政策からの転換

はじめに/環境問題の特徴と認識変化/効率性重視の環境政策と環境行政からの転換/まとめ

第2章 バングラデシュ 進化する環境問題とNGOの成長

はじめに/自然の特徴と災害/生物多様性と世界自然遺産シュンドルボン/経済発展と都市化・人口増加/環境政策の推移と制度上の問題点/環境NGOによる環境保護(保全)運動の展開/水質汚濁:砒素汚染を中心として/大気汚染:問題の発生要因と被害とその対策/結びにかえて

第3章 極東ロシア 危機に瀕するタイガの生態系

はじめに/極東ロシアの自然環境/ソ連からロシアへ/森林・林業/極東ロシアにおける先住民・少数民族/自然保護区の現状/気候変動問題/まとめ

第4章 朝鮮民主主義人民共和国 知られざる環境面の実態

はじめに/建国後の環境政策の経緯/UNEP報告書が伝える環境の状況/森林/国際環境協力の可能性

第5章 フォローアップ編

日本 ‖ 求められる抜本的な諸対策への転換

公式確認から50年目を迎えた水俣病問題/再燃するアスベスト問題と問われる総合対策/京都議定書の発効と日本政府の対応

韓国 ‖ 進みつつある制度構築とその課題

持続可能な国土環境管理体系の構築/有害物質による健康被害と環境保健対策/生ゴミの埋立禁止と再資源化

中国 ‖ 環境問題の爆発と期待される草の根のNGO活動

急速な経済発展の影で/省エネと温暖化対策/第11次5カ年長期計画に向けた環境政策の動向/大規模な環境汚染事故の頻発/草の根に広がる環境NGO活動

台湾 ‖ 循環型社会の構築に向けてのチャレンジ

環境保全と地域発展/台北市におけるゴミ料金システムの改正/プラスチック容器の生産および利用規制/資源ゴミリサイクル制度の推進とその経済効果

フィリピン ‖ 民間依存の環境政策

クリーン開発メカニズムとエネルギー政策/外国企業による大規模鉱山開発は吉と出るか,凶と出るか/凶と出た森林資源開発

ラオス ‖ 巨大開発を前に沈黙を強いられる村人たち

ラオスの自然・社会環境/ナムトゥン2水力発電ダム/産業植林/土地森林委譲事業

タイ ‖ 遺伝子組み換え作物をめぐる政治

遺伝子組み換え作物の屋外圃場栽培試験の禁止/屋外試験解禁への動き/GMO政策の転換と再転換/GMO政策の行方

マレーシア ‖ 都市環境の改善における政府とNGO

クアラルンプール首都圏のインフラ整備/サステナブル・ディベロップメント:ペナンの挑戦

インドネシア ‖ 住民自治へ向けた取組み

持続可能な資源利用の模索/ルヌン水力発電プロジェクト地域/上流域住民の戦略の転換/地域住民が行政を動かす方向へ

インド ‖ 開発と環境をめぐる正義

環境政策にみられる開発主義/スラム住民の強制退去/ウラン鉱山開発と先住民

第III部 データ解説編

保健・教育・労働/依然続く軍事環境問題/改善が遅れる水の衛生問題/モータリゼーションの進展と環境・安全/廃棄物の発生と越境移動/都市部におけるヒートアイランド現象/再生可能エネルギー利用の現状/クリーン開発メカニズム(CDM)の動向/発展途上にある有機・エコ農業/野生生物の取引:消費国日本と輸出国ASEAN/エコツーリズムと国際観光の動向/アジアにおける環境条約とその実施/環境アセスメントの法制化とその課題

あとがき

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