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情報:農業と環境 No.83 (2007.3)
独立行政法人農業環境技術研究所

本の紹介 224: 不都合な真実、 アル・ゴア 著、 枝廣淳子 訳、 ランダムハウス講談社 (2007) ISBN:978-4-270-00181-3

アル・ゴア元アメリカ副大統領は、1992年に「地球の掟―文明と環境のバランスを求めて」を出版し、その後も地球温暖化によって引き起こされる深刻な有様を世界各地で精力的に講演してきた。「今起こっている温暖化の大部分は人間が起こしているものであり、ただちに行動をとらないかぎり、取り返しのつかない結果をもたらしてしまう」との危機感を短時間で最大数の人々に伝えるために、映画化を計画し、また、同時に映画と同タイトルの書籍「不都合な真実」を出版した。

本書は、「地球」をテーマに膨大な写真と具体的数値を図表化して視覚に訴えることによって、地球温暖化を身近に迫った緊急の課題として読者に突きつける。温暖化の原因である二酸化炭素濃度の増加と、その結果である地表気温や界面温度の上昇、急激な気候変動による山岳氷河の後退、森林破壊、強力なハリケーン、竜巻、暴風雨の発生、砂漠化など、世界の各地で起こっている猛威を、写真は「自然の狂乱状態」と警鐘し、さらに洪水、水飢饉、食糧不足、飢餓、生態系のかく乱など、生活基盤の喪失を招き人類の生存が危ぶまれるような実態を描写している。このような地球環境の悪化は、映像や新聞報道などを通して日常的に伝えられているものであるが、解説がついた写真集としてまとめられたことで、さらに身近に起こっている事象として真剣に対峙させられる思いである。

生態系と人間の関係が崩壊しはじめている。本書では、人間側からの要因について、急激な人口増加、科学技術の進展、気候の危機に対する根本的な考え方 の3点に要約している。とくに3番目の点については、「真実を否定してはいけない」(マーク・トウェイン)を引用し、自分たちの生存を脅かす危険に対して敏感に反応することの重要性を述べている。そして、「気候の危機に関する真実は、自分たちの暮らし方を変えなくてはならないという[ 不都合な真実 ]なのである」と、地球規模の大問題に緊急に取り組むための環境政策の必要性を訴えている。

著者は、常に社会に役立つための仕事を考え行動しており、地球環境問題の解決に向けた強烈な情熱が伝わってくる。2007年2月に、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書第1作業部会報告書(自然科学的根拠)が公表され、科学的根拠によって、地球温暖化の原因が主として人為的な温室効果ガス発生にあることが明らかにされた。近年の異常気象が地球温暖化との関連から考察されることも多く、本書「不都合な真実」は生活を見直すことの必然性を痛感させてくれる。

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