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情報:農業と環境 No.84 (2007.4)
独立行政法人農業環境技術研究所

第24回 土・水研究会 「物質循環の基盤としての土壌 −炭素循環における役割−」 が開催された

2007年2月21日、農林水産技術会議事務局筑波事務所農林ホールにおいて、第24回 土・水研究会 「物質循環の基盤としての土壌 −炭素循環における役割−」 が開催されました。

この研究会では、京都議定書の発効等の地球温暖化に関わる国際情勢との関連で、1) 地球・広域レベルにおける土壌炭素の動態について、2) ミクロなレベルで土壌固有の有機物である腐植について、3) 圃場レベルで栽培体系の変化に伴う土壌肥沃度の持続性について、最新の成果に基づいた論議が行われました。

なお、当日の参加者数は合計215名で、地方自治体から90名、大学から13名、民間から16名、独立行政法人研究機関等から51名、そして農業環境技術研究所から45名が参加しました。

講演の内容 全体版PDFファイル, 4.4 MB)(表紙・目次PDFファイル, 0.4 MB

1.開催趣旨: 物質循環の基盤としての土壌−炭素循環における役割−PDFファイル, 0.4 MB

菅原和夫氏(農業環境技術研究所)から、土壌中には膨大な量の炭素が腐植として蓄えられているので、土壌中の有機物の動態が大気中の二酸化炭素やメタンの濃度に大きな影響を及ぼすとの問題提起がありました。

2.地球規模での炭素循環研究の最新動向: グローバルカーボン・プロジェクトと環境省プロジェクトの成果PDFファイル, 1.4 MB

山形与志樹氏(国立環境研究所)から、新たに開発した統合的システムアプローチにより、地球規模で年間の炭素動態を推定した結果が紹介されました。火災被害や森林伐採などのかく乱による影響を考慮して、推定値の不確実性を減らす必要性が指摘されました。

3.農林水産生態系における炭素循環の解明: 農水省地球温暖化プロジェクトの紹介PDFファイル, 0.5 MB

八木一行氏(農業環境技術研究所)から、農業分野にかかわる課題として、全国の農耕地の土壌炭素賦存量(土壌中に存在する炭素の全量)を推定し将来予測地図を作成する計画、日本各地のさまざまな農耕地において削減技術を試験する計画の紹介がありました。

4.土壌炭素変動の広域的評価: Rothamsted Carbon モデルの拡張PDFファイル, 1.1 MB

横沢正幸氏(農業環境技術研究所)から、畑地や草原における土壌有機物の長期的変化を記述するために開発されたRothamsted 炭素(C)モデルを、水田の有機物分解を記述できるように拡張し、土壌炭素変動の広域評価に利用した成果の紹介がありました。

5.土壌圏を中心とした森林生態系の炭素収支および土壌呼吸の長期モニタリングPDFファイル, 1.4 MB

岸本文紅氏(農業環境技術研究所)から、冷温帯林生態系における炭素収支を計算するために、微気象学的手法によるタワーフラックス観測と並行して、生態学的手法により個々のプロセスを解明した成果の紹介がありました。

6.土壌中の溶存有機態炭素の動態と炭素蓄積との関わりPDFファイル, 1.0 MB

和穎朗太氏(京都大学)から、土壌有機物の貯蔵量が非常に高い土壌表層において、溶存有機態炭素・水溶性有機炭素がどのように変動・蓄積するかを、生物的要因(微生物活動や根の影響)と吸着・沈殿プロセスの両面から解明した成果の紹介がありました。

7.土壌中における腐植物質の蓄積機構PDFファイル, 0.8 MB

山口紀子氏(農業環境技術研究所)から、黒ボク土に腐植物質が蓄積しやすい理由として、カルボキシル基にアルミニウム(Al)や鉄(Fe)が効率よく結合し、分解・溶解しにくい状態が保たれることで、Al・Fe-腐植複合体として土壌に蓄積するためとの推論が示されました。

8.畑地における農地管理法の違いと土壌炭素隔離PDFファイル, 0.7 MB

古賀伸久氏(北海道農業研究センター)から、北海道・十勝地域の畑作農業を対象とする温室効果ガスのライフサイクルインベントリ分析によって、畑地における農地管理法の違いが土壌炭素蓄積に及ぼす影響を解明した成果の紹介がありました。

9.田畑輪換の継続が土壌肥沃度に及ぼす影響PDFファイル, 0.6 MB

加藤直人氏(東北農業研究センター)から、田畑輪換の繰り返しや長期畑転換によって土壌有機物や可給態窒素が減少すること、土壌の窒素供給力を維持するためには、有機質資材を意識的に施用する必要があることが示されました。

論議の内容

主な質疑について以下に紹介します。

1.地球規模での炭素循環

東アジアにおける炭素動態に関連して、山形氏から泥炭地の撹乱により有機物が水域へ流出するとの問題提起がありました。インドネシアやマレーシアでは、広大な泥炭地を排水して農業利用する計画が進められているので、二酸化炭素の発生源となる可能性が懸念されます。

2.土壌炭素の蓄積機構

Rothamsted Cモデルで田畑輪換の長期影響を予測できるかとの質問に対して、横沢氏から今後の課題として取り組みたいとの回答がありました。土壌中のAl・Fe含量から土壌に蓄えられる炭素の上限を推定できるかとの質問に対して、和穎氏および山口氏から困難であるとの回答がありました。農耕地ではどのくらいの深さが対象となるのかとの質問に対して、古賀氏より気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のガイドライン(30cm)に従っているとの回答がありました。

3.有機物管理と食糧生産

前田守弘氏から、1)炭素を蓄えるために炭素/窒素(C/N)比の高い有機物を施用すると作物生育に悪影響を及ぼす、2)炭素分解の観点から田畑輪換を中止するのは疑問であるとの意見が出されました。また、荒巻幸一郎氏から、炭素を蓄えるのが目的ならバーク堆肥を大量投入する施肥体系を作ればよいのではないかとの意見が出されました。これらの意見を踏まえて、田畑輪換による土壌肥沃度の低下を防ぐために、どのような土壌管理が望ましいかについて論議が行われました。

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