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情報:農業と環境 No.85 (2007.5)
独立行政法人農業環境技術研究所

国際情報: 気候変動に関する政府間パネル (IPCC) 第4次評価報告書: 第2作業部会報告書(影響・適応・脆弱性)

 4月2日から6日までブリュッセルで開催された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第2作業部会第8回会合において、第4次評価報告書第2作業部会報告書が受諾、公表された。この報告書は、2月の第1作業部会報告書(自然科学的根拠)(「情報:農業と環境」83号の記事 を参照)に続くもので、1)気候変化が自然と社会に与える影響、2)自然と社会の気候変化に対する適応能力の程度、3)気候変化に対する自然と社会の脆弱性を扱っている。

2001年に公表された第3次評価報告書では、「影響は地域ごとに部分的に出始めている」としていたが、今回の第4次評価報告書では、「気候変化が世界中の地域の自然と社会に影響を与えていることが明らかになった」と報告している。さらに、適応策と緩和策とを組み合わせることで気候変化に伴うリスクを低減できる、また、適応能力を高めるためには気候変化の影響を考慮した開発計画が重要であるとしている。報告の概略は以下のようにまとめられる。

温暖化の影響は、地球の全大陸とほとんどの海洋で現れている。観測結果から、物理環境で94%、生物環境で90%の観測データが有意な影響を示している。気候変動が自然環境と人間環境に及ぼす、あるいはすでに及ぼしている主要な影響として、氷河湖の増加と拡大、春季の生物現象(発芽、鳥の渡り、産卵行動など)の早期化、高い緯度および高い標高への動植物の生息域の移動、多くの地域における湖沼や河川の水温の上昇などがあげられている。

世界の平均気温の上昇が0℃から5℃の範囲について、水、生態系、食料生産、沿岸域、健康に対してどのような影響があるかが、推測されている。たとえば、農業にとっての生命線である淡水資源については、今世紀半ばまでに年間平均河川流量と水の利用可能性が、高緯度地域といくつかの湿潤熱帯地域では10〜40%増加、多くの中緯度地域と乾燥熱帯地域では10〜30%減少すると予測している。また、陸上生態系における正味の炭素吸収は今世紀半ばまでにピークに達し、その後は弱まるか排出に転じる可能性が高い、さらに、世界の潜在的食料生産量は、地域の平均気温の上昇幅が1〜3℃の間は増加するが、これを超えると減少に転じると予測している。

これに加えて、極端な気象および気候現象の変化によって今世紀末までに生じうる影響が、農業・林業と生態系、水資源、健康/死亡率、産業/居住/社会の各セクターについてまとめられている。

気候変化への対応については、現在実施されている適応は不十分で、一層の強化が必要である。これまでの取組みで気候変化によるすべての影響に対処できるわけではなく、適応策と緩和策を適切に組み合わせることで、気候変化に伴うリスクを低減できるとしている。

気候変化の影響によるプラスを便益、マイナスをコストで解析している。1990年レベルからの全球平均気温の上昇が1〜3℃未満である場合、ある地域のあるセクターにおいて便益をもたらす影響と、別の地域の別のセクターでコストをもたらす影響が混在する可能性が高い。また、気温の上昇が約2〜3℃以上である場合には、すべての地域において正味の便益の減少か正味のコストの増加のいずれかが生じる可能性が非常に高いとしている。

最後に、第3次評価報告書以降、気候変化の影響と適応の可能性に関する情報を政策決定者に提供する科学は進歩したが、今なお多くの重要問題が未解決であると指摘し、第2作業部会報告の各章は、将来の観測と調査の優先順位について多くの判断を含んでおり、この助言は真摯に考慮されるべきであると述べている。

今後、第4次評価報告書に関しては、温室効果ガスの排出削減など気候変化緩和に関するオプションについて評価した第3作業部会報告書が、4月30日〜5月3日の間に承認され、公開される予定である。

第4次評価報告についてのくわしい情報を知りたい方は、IPCCのWebページ(英語)(http://www.ipcc.ch/) あるいは 環境省Webページ(日本語)(http://www.env.go.jp/earth/ipcc/4th_rep.html)をご覧いただきたい。

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