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情報:農業と環境 No.85 (2007.5)
独立行政法人農業環境技術研究所

農業環境技術研究所年報 第23号 (平成17年度) が刊行された

平成17年度(2005年度)の農業環境技術研究所年報が刊行されました。農業環境技術研究所が発足した昭和58年度(1983年度)から数えて23冊めの年度報告です。

以下に、その「はしがき」と目次を紹介します。

はしがき

人間の利益のために多くの動植物種を制御することを本質とする農業は、太陽の光をエネルギーに、大気中の二酸化炭酸、土壌中の養分、水といった物質を取り込み循環させて、成長する植物の機能を利用して食料を生産する産業です。自然のこうした物質循環機能を適切に活用する農業は環境に調和した持続的な産業ですが、生産性の拡大による自然の循環機能の不適切な活用は、農業それ自体の存在を危ぶませ、私たちは自らを扶養する能力を失うことにもなります。

謎に満ちたイースター島の文明の崩壊は生態系への過剰な圧力によるものであるといわれています。許容量を超えた人口の増大は、陸鳥や海鳥の捕獲による絶滅と内海の漁業資源の捕りつくしをもたらし、島を覆っていた椰子の森は農業によって破壊され土壌侵食が進み、その結果人口扶養力が失われた、というのです。

イースター島の悲劇は今日の私たちの社会とは異なる社会で起きたことだからといって見過ごすことはできません。私たちの社会でも食料生産は本質的な問題であり、農業による生態系への圧力は今日でも起きていることです。

周知のように私たちの研究所は、農業生産の対象となる生物の生育環境の保全および改善に関する技術の向上に寄与することを目的としています。この目的を果たすために、私たちは、1)農業生態系の持つ自然循環機能に基づいた食料と環境の安全性の確保、2)地球規模での環境変化と農業生態系との相互作用の解明、3)生態学、環境科学研究に関わる基礎・基盤、に関する研究を第I期中期計画に定め重点的に行ってきました。

平成17年度は第 I 期中期計画を達成する最終年度に当たります。したがって、この報告書に記載されている研究成果は、過去1年間の成果というよりは、それまでの4年間における年々の成果の上に積み重ねられた成果であるということができます。そうした意味で、本年度の年報は、第I期中期計画の集大成であるという性格を一部備えています。なお、平成18年度から新たに開始する第 II 期中期計画の策定と、その計画を遂行するための体制の整備をも本年度に実施しました。

科学には、知識を深める科学(科学のための科学)と、社会が直面する課題を理解し解決策を提示する科学(政策のための科学)の2つがあります。地球システムの危機の度合いが高まりつつある21世紀の今日、それら2つの科学の発展が望まれる状況にあり、私たちの研究所は社会に対する責務としてこの両者に寄与することを志向しています。これを遂行するためには、広い意味での生態系への農業による過剰な圧力を回避・除去する知識の創造が必要であり、それには、ギボンズらが提起するように、農業環境技術に関わるディシプリンを基礎とした知識生産を行うと同時に、多数のディシィプリンからの分野横断的な参画で行われる知識生産を行うことが必要不可欠であると考えています。

本書が、「離見の見」をわれわれ自身に与え、また、読者諸賢からの忌憚のない批判を得る機会ともなり、それらを通じて研究の更なる深化が図られるとともに、本書が皆様にとって有意義な情報になることを願っています。

2006年10月

独立行政法人農業環境技術研究所

理事長  佐藤 洋平

目次

はしがき

基本理念・行動憲章・環境憲章

I. 研究実施の概要

1. 地球環境部

2. 生物環境安全部

3. 化学環境部

4. 農業環境インベントリーセンター

5. 環境化学分析センター

II. 平成17年度研究課題

1. 年度計画研究課題一覧

2. 受託プロジェクト研究等一覧

再委託先リスト

3. 法人プロジェクト研究課題一覧

III. 研究成果と展望

1. 大気CO濃度の上昇と群落微気象要因を考慮したイネの穂温推定モデル

2. 食料生産・消費拡大がもたらす東・東南アジアの水質変動の予測

3. 農耕地からの亜酸化窒素の排出係数は現在のIPCCデフォルト値よりも低い

4. 生物多様性保全のための景観・植生調査解析システム

5. アオコの増殖抑制植物を検定する「リーフディスク法」の開発

6. 導入天敵昆虫等の新たな生態系影響評価方法と導入判断基準

7. 珪藻の除草剤感受性を群集レベルの生育速度により簡易に検定する

8. キュウリ苗立枯病を抑える組換え微生物の土壌微生物相への影響

9. 昆虫文献目録「三橋ノート」の画像データベースの作成と公開

10. 130年にわたって採集された微生物さく葉標本の目録の作成と公開

11. XANESを用いた水田土壌中のヨウ素の非破壊形態分析とその溶脱機構

IV. 研究成果の発表と広報

1. 研究成果

(1) 農業環境技術研究所の刊行物

(2) 学術刊行物

(3) 学会等講演要旨集

(4) 著書・商業誌等刊行物

(5) その他

2.広報

(1) 所主催によるシンポジウム・研究会

(2) 刊行物一覧

(3) 情報:農業と環境

(4) 個別取材一覧

(5) 新聞記事

(6) テレビ・ラジオ等

V.研究・技術協力

1. 会議等

2. 海外出張者

3. 産官学の連携

(1) 共同研究

(2) 行政との連携

1) 行政機関等の主催する委員会への派遣

2) 国際機関への協力

3) 研究会等への講師派遣

(3) 外部研究者の受入

4. 研修等

(1) 技術講習

(2) 外国人研修

(3) 職員研修

5. 分析・鑑定等

VI. 総務

1. 機構

2. 人事

(1) 定員

(2) 人事異動

(3) 受賞・表彰

3. 会計

(1) 財務諸表

(2) 決算報告書

(3) 予算、収支計画及び資金計画

(4) 国定資産

(5) 機械等購入

(6) 特許等一覧表

4. 図書

5. 視察・見学者数

6. 委員会

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