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情報:農業と環境 No.85 (2007.5)
独立行政法人農業環境技術研究所

本の紹介 229: 植物が地球をかえた! 葛西奈津子 著、 日本植物生理学会 監修、 日本光合成研究会 協力、 化学同人 (2007) ISBN 4-7598-1181-8

植物生理学会が中心になって企画した「植物まるかじり叢書」の第1巻で、光合成を中心にまとめられている。この企画は、サイエンスライターが植物科学の研究者たちを訪ねて植物の驚異とその研究のおもしろさをレポートする、全5冊の読み物シリーズである。

第1巻のテーマは「地球環境と植物」である。現在の地球環境、中でも大気の組成は、植物(ラン藻や藻類を含む)の光合成により、長い年月をかけて形成されてきたものである。本書の内容は、タイトルの「植物が地球をかえた!」から連想するイメージとはちょっと異なり、植物生理から見た植物の生態、あるいは植物の進化が主題といえる。しかし、(植物が専門ではないという)サイエンスライターが研究者にインタビューし、書き上げるという企画は成功しており、意外と知らない植物の話が興味深くまとめられている。

たとえば、光合成を触媒する酵素であるルビスコ(Ribulose bisphosphate carboxylase/oxygenase)は、地球上にもっとも多量に存在するタンパク質でもあるが、酵素としての触媒効率は悪いという話題、また、「光呼吸」によって光合成反応全体の効率が下がっているという話題は、生物進化の偶然性、あるいはその結果としての非効率について考えさせる。「環境と生理の間でジレンマをかかえ、トレードオフに生きる」のが植物であると著者はいう。生物は環境中で生き残るために、たまたま獲得した機能を、不便をしのぎながら後生大事に使っている、と言いかえることもできるだろう。

地球温暖化、食糧問題、バイオエネルギーなど、人類の抱える大きな問題の解決のためには、植物の力を借りることが必須である。だが、植物について、わかっていないことはまだまだ多い。生物が進化の過程で残してきた機能面での大きな桎梏(しっこく)を科学の力で克服することは、容易ではない。

目次

1章 知られざる植物の世界へ  (寺島一郎さんに聞く)

2章 ジャイアントケルプの森から  (川井浩史さんに聞く)

3章 船に乗って海の生産者に会いにいけば (古谷 研さんに聞く)

4章 地球の大気と植物の運命  (牧野 周さんに聞く)

5章 光と水のジレンマに生きる  (舘野正樹さんに聞く)

6章 21世紀に緑の革命をふたたび  (前 忠彦さんに聞く)

7章 光合成色素を手がかりに生命進化の歴史を探る (伊藤 繁さんに聞く)

8章 地球環境と植物の将来を見つめて (伊藤昭彦さんに聞く)

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