第27回農業環境シンポジウムが、5月23日、600名近くの参加を得て東京イイノホールで開催され、バイオ燃料と食料を巡る国内外の動きと今後の対応について熱心な論議が交わされました。
ここでは、アース・ポリシー研究所所長レスター・ブラウン氏の基調講演の要約と、それに続くパネルディスカッションの概要をお知らせします。詳細については、後日、農業環境技術研究所Webサイトに掲載する予定です。
基調講演 「バイオ燃料が食卓を脅かす」 (レスター・ブラウン氏)
要約
米国では2005年のハリケーン・カトリーナの大被害の後、石油価格が高騰(こうとう)した結果、トウモロコシを原料とするバイオ燃料(エタノール)の生産・利用が拡大している。
世界ではバイオ燃料用の作物の作付面積増加により森林や生態系の破壊など環境問題が起こることが予想される。また、穀物の価格が上昇し、家畜生産だけでなく市民の食卓にも大きな影響を及ぼすことになる。
世界中で、自動車に乗る8億人と貧しい生活の20億人が穀物を争奪することによって、貧困層が大きな打撃をうけるが、現在、この状況は市場原理にまかされている。
今こそ、エタノール製造工場の新設を中止するとともに、電気を利用したプラグイン・ハイブリッド自動車の開発・利用や、そのための風力発電など自然エネルギーの活用の推進を急ぐ必要がある。それとともに、バイオ燃料の製造が、食料安全保障、政治、経済、環境などに及ぼす影響を分析し、将来を予測して対策を講じることが必要である。このままでは、穀物のバイオ燃料への転用の流れを止めることができず、危機的な岐路に立っているといえる。
基調講演を行うレスター・ブラウン氏
パネルディスカッション
秋山博子主任研究員(農業環境技術研究所)のコーディネートのもと、レスター・ブラウン氏に、嘉田良平氏((株)アミタ持続可能経済研究所)、阮 蔚 (Ruan Wei) 氏(農林中金総合研究所)、末松広行氏(農林水産省大臣官房環境政策課)が加わり、会場からの質問に対する回答を含め、パネルディスカッションが行われました。
おもな論点
(1) 石油の価格は高値安定が予想され、これからも、バイオ燃料の生産増大が飼料・食料の供給量と価格に影響を与えることになるだろう。
(2) バイオ燃料ブームは、わが国の畜産と食料生産に大きな影響をもたらす。飼料価格の安定化を図るほかに、バイオマス燃料作物の生産のための遊休地の利用や、わら、セルロースなど非食用部や廃棄物の利用の研究開発も重要である。
(3) バイオ燃料の生産や貿易について国際的なルールを設定する必要がある。すなわち、バイオ燃料の生産・加工・輸送プロセスにおけるCO2 のLCA(ライフサイクルアセスメント)評価を行うこと、農地開発による新たな環境破壊を防止すること、主食確保の観点から零細農民や貧困層の食料安全保障を脅かさないことなどである。
(4) 日本が食料自給率を向上させることが重要である。また、農業が食料の生産だけでなく、水資源確保など環境サービスを提供することも忘れてはならない。
(5) バイオ燃料の生産性向上に向け、品種改良、栽培技術などについての国際的な技術協力が必要である。アジア各国と協力して、食料と調和するエネルギー生産をめざすべきである。
パネルディスカッション