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情報:農業と環境 No.86 (2007.6)
独立行政法人農業環境技術研究所

GMO情報: Btコーンはマイコトキシン (カビ毒) の被害をほんとうに減らすのか?

Btコーンは、土壌中に生息する昆虫病原菌であるバチルス・チューリンゲンシス ( Bacillus thuringiensis ) が作る殺虫成分を発現する遺伝子組換えトウモロコシである。2006年には北米を中心にスペイン、南アフリカ、フィリピンなど、世界で約2000万ヘクタールに栽培され、除草剤耐性ダイズに次いで栽培面積の多い組換え作物となっている。アワノメイガ (コーンボーラー) など鱗翅 (りんし) 目の害虫を防除対象とする系統と、鞘翅 (しょうし) 目害虫であるネクイハムシ (コーンルートワーム) を防除するための系統が商業栽培されているが、ここで取り上げるBtコーンは鱗翅目害虫を対象とする系統である。

Btコーンは殺虫剤の散布を大幅に減らすことができるため、生産者にとっては経費と健康の面で大きな利点がある。さらに、組換え作物の栽培を推進する側では、消費者へのメリットとしてカビ毒被害の軽減をあげている。だが、組換え作物の栽培に懸念や慎重な態度を示す側は、Btコーンによるカビ毒被害の軽減については科学的な立証がされていないと主張している。実際、Btコーンと非Btコーンを比較した学術論文でも、カビ毒被害の評価は一定していないことが多い。

それはなぜか? 米ビッツバーグ大学の Wu 准教授 (公衆衛生学) は、トウモロコシの主要なマイコトキシン (カビ毒) であるアフラトキシン ( aflatoxin ) とフモニシン ( fumonisin ) とを区別して評価しないために混乱が生じていると解説している (ISBニュースリポート、2006年9月)。

フモニシンはフザリウム菌 (おもに Fusarium verticillioidesF. proliferatum ) から産生される毒素で、人の食道ガン、家畜の血液病や肺腫病の原因となる。一方、アフラトキシンはアスペルギルス菌 (おもに Aspergillus flavusA. parasiticus ) によって産生され、人の肝臓ガンの原因となり、家畜・家禽 (かきん) 類にも重大な病気を引き起こす。どちらについても食品や家畜飼料への混入に関して、厳しい許容基準が決められている (日本においても、フモニシンとアフラトキシンはデオキシニバレノール(DON)などとともに、輸入トウモロコシのモニタリング対象有害物質とされている)。

同じマイコトキシン産生菌でも、フザリウム菌とアスペルギルス菌とでは、トウモロコシへの感染経路が異なっている。フザリウム菌はトウモロコシの実 (穂軸) に潜り込んだアワノメイガの食害痕から傷口感染するが、アスペルギルス菌はトウモロコシ雌穂 (雌花) から伸びる絹糸から感染する。

Btコーンでは、アワノメイガの被害が抑えられるためトウモロコシ穀粒への食害痕は少なく、フモニシンの被害は大幅に減少する。だが、Btコーンはアスペルギルス菌の絹糸からの侵入を抑える直接の効果はないため、アフラトキシンによる被害と明確には関係しない。アフラトキシンの被害には、温度や降水量などの気象要因が大きく影響し、Btコーンか非Btコーンであるかは二次的な決定要因である。Btコーンがアフラトキシンの被害に有意な抑制効果を示すのは、雌穂の先端部を加害する害虫の被害が大きく、Btコーンがこれらの害虫にも効果を示す地域 (テキサス州など米国南東部) に限定される。

Wu 准教授は、Btコーンの導入による米国の市場でのマイコトキシン被害軽減の効果を年間2300万ドルと推定し、アフラトキシンの抑制効果も大きい南部地域ではBtコーン導入のメリットが大きいと予測している。

おもな参考文献

http://www.isb.vt.edu/news/2006/news06.sep.htm#sep0604

Wu F. (2006) Mycotoxin reduction in Bt corn: potential economic, health, and regulatory impacts. Transgenic Research 15:277-289.

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