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情報:農業と環境 No.86 (2007.6)
独立行政法人農業環境技術研究所

本の紹介 233: メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学 松永和紀 著、 光文社新書298(2007) ISBN 978-4334033989

科学的知見を第三者に正確に理解してもらうことは容易ではない。近年、得られた研究成果は一般に広く還元することが強く求められるようになった。研究機関や研究者にとって、成果を効果的に発信するための工夫や努力がこれまで以上に必要になってきた。有益な科学的知見をいかに活用して快適な生活を創造し様々な問題を解決できるか、発信者と受け手の相互関係が熟成されていることが望ましい。テレビ、新聞、書物などの科学報道がこの両者をつなぐ役割を担っており、一般には複雑で理解しがたいと思われる科学的知見を正確で的確に分かり易く伝えることがすべての報道における責務であろう。

科学報道は、効果的手法を駆使してあらゆる階層の意見を誘導し、社会の合意形成に関与できる立場にある。だからこそ、報道に対する期待はきわめて大きいといえる。しかし、もし、意図的に不正確あるいは捏造した報道であれば、断じて許されるものではない。間違った情報を疑いもせず簡単に受け入れてしまう側にも問題があるが。

このたび、科学ライターの松永氏が、健康、食料、環境などに関する科学報道の現状を詳細に調査し、「メディア・バイアス−あやしい健康情報とニセ科学」を出版した。本書では、特に国民が敏感に反応する健康情報を中心に、報道番組にウソが氾濫して信用できないものが多いという実態、受け手にとっておもしろく都合の良い研究成果をつなぎ合わせた(捏造の場合も)番組作成のあり方、番組内容を信用した人々の被害等々、これまでの報道番組について、広範囲の科学的知見を基に紹介し、さらに、私見を織り交ぜながら解説している。

このような科学報道がある一方で、科学者の倫理観をも厳しく指摘している。「一般消費者や専門知識のないメディア人たちは、一定の肩書きのある研究者やもっともらしい実験データに踊らされがち」とし、そして、「いい加減な実験結果を公表する研究者や、メディアに都合のいいコメントを量産する研究者(ナンチャッテ学者)」を許さない。このような学者が跋扈(こ)するのは、メディアのみならず国、同業者の対応にも問題があると、科学者に対しても猛省を促している。

最終章には、「科学報道を見破る十カ条」が提案されているので紹介する。

1.懐疑主義を貫き、多様な情報を収集して自分自身で判断する

2.「○○を食べれば・・」というような単純な情報は排除する

3.「危険」「効く」など極端な情報は、まず警戒する

4.その情報がだれを利するか、考える

5.体験談、感情的な訴えには冷静に対処する

6.発表された「場」に注目する。学術論文ならば、信頼性は比較的高い

7.問題にされている「量」に注目する

8.問題にされている事象が発生する条件、とくに人に当てはまるのかを考える

9.他のものと比較する目を持つ

10.新しい情報に応じて柔軟に考えを変えてゆく

マスコミは、研究成果を国民に解説するとともに、それらの科学的事象から派生する技術開発や、リスク管理などの行政施策の構築に有効に作用するため、大変ありがたい存在である。しかし、本書で紹介されたように、すべての科学報道が真実とはかぎらないことを肝に銘じなければならない。また、著者が指摘する間違った科学情報を発信する科学者であってはならない。科学報道の現実に対峙するために一読をおすすめする。

目次

はじめに

第1章 健康情報番組のウソ

幼児まで被害に遭った白インゲン豆ダイエット/TBSのいい加減さに医療関係者は怒った/白インゲン豆にダイエット効果なし/納豆ダイエットのウソ/最初に結論ありき/みのもんた症候群/寒天ブームも健康被害生む/レタスの快眠作用も捏造か/捏造事件を契機に起きた奇妙なバッシング/メディアは責任をとってくれない

第2章 黒か白かは単純すぎる

量の大小を考える/中国産野菜報道もトリックだった/単位を理解する/日本ではDDT報道もゆがむ/WHOが利用を推進/リスクとベネフィットを考える/PCB処理も難航/北九州市が立地検討/科学者が扇動

第3章 フードファディズムの世界へようこそ

効能成分を食べるつもりがかえって有害に/紅茶は○でもミルクティは×/β−カロテンで発がん率上昇も/フードファディズムが氾濫

第4章 警鐘報道をしたがる人びと

世間を恐怖に陥れた環境ホルモン騒動/人への環境ホルモン作用は確認されず/低用量効果も否定された/悪いニュースはいいニュース/冷静さを欠く化学物質過敏症報道/二重盲検法/患者数も誇張か?/遺伝的な個人差が関係?/かわいそうな患者

第5章 添加物バッシングの罪

三菱自動車の車は燃えやすい?/添加物バッシングが燃えさかった二〇〇六年/間違いだらけの本/誤解が広がっていく/バッシングのせいで消費者は困った事態に/バッシングが生んだ最大の悪影響

第6章 自然志向の罠

オーガニック食品は安全じゃない?/作物は体内で天然農薬を作っている/有機のおいしさは新しいから?/天然農薬かファイトケミカルか

第7章 「昔はよかった」の過ち

現代の味噌はアメリカ文化の産物/野菜不足で短命だった日本人/懐古主義では解決しない/アレルギー増加は清潔化が原因?

第8章 ニセ科学に騙されるな

マイナスイオンが大流行/メディアが騙された理由は……/マイナスイオンブームが再燃?/「水からの伝言」は教育、政治の場面に/国会質問、自治体広報紙にも登場/子どもは信じていない

第9章 ウソつき科学者を見破れ

遺伝子組み換え大豆が問題に/ずさんな実験結果/日本で騒動が再燃/騙しのテクニックの見本市/科学の衣をまとった売名行為/ナンチャッテ学者の倫理観

第10章 政治経済に翻弄される科学

バイオ燃料ブーム/トウモロコシが燃料用エタノールに/地産地消の商品/燃料vs食料/抜本的な農業政策が必要/ブレークスルー技術が必要/トランス脂肪酸問題も国家間のせめぎ合い/規制強化が有利になるマレーシアやインドネシア

第11章 科学報道を見破る十カ条

フリーの科学ライターの懐具合は……/科学者の倫理/科学者がブログで情報発信/日本語の壁/NGOによる科学を使った企業テロ/優れたリスクコミュニケーション/科学報道を見破る十カ条

おわりに

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