地球が脅(おびや)かされている! 本書は、温暖化による恐るべき環境変動の実態や病める地球のすがたを視覚的に示すことで、今起こっている問題にただちにブレーキをかける必要性を訴えている。最近の暴風雨、干ばつ、熱波など異常気象による災害の発生が温暖化との関連で論じられ、一般生活の中でも温暖化を実感するようになってきた。また、温暖化が人為起源によることがIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書でも明らかにされてきており、温暖化による脅威に対して国際的なレベルで取り組むことが必要である。
地球温暖化に関する情報はマスコミで毎日取りあげられ、関連する本の出版も多い。本書は、温暖化の発生源や影響の大きさを世界地図の上でグラフと色分けによって明確に表現している。世界地図を概観するだけで、地球環境が人類の生存に取り返しのつかない状況になりつつあることを認識できる。極域での温暖化による氷の融解と棚氷の崩壊や氷河の後退、米国や中国での極端に異常な気象災害による死亡者数の増加など、世界の各地域で発生している多様な恐ろしい現象が一目瞭然である。
気候変化に大きく影響する二酸化炭素については、「温室効果ガスのほとんどは、近代の工業社会のニーズを満たすために排出されてきたし、現在もそうである」とし、「気候変化に対し、いかに最善に緩和・適応するかに関する国際的な交渉の核心となる重要な公平性の問題を提起する」と結んでいる。一人当たりの二酸化炭素排出量で比較すると、日本は第4位を占めており、わが国にも積極的な対応が求められていることを痛感する。
農業は、温室効果ガスである二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素(亜酸化窒素)を排出しており、米国、中国、インド、ブラジルでの排出量が多い。食料、雇用、収入の基本的ニーズを満たす農業は必須な活動として容認しているが、「豊かな消費者に贅沢な選択を提供する」ための農業のあり方には手厳しい。
気候変化による農業への影響も解説されている。土壌保全や水管理などの農業技術の発展によって、世界の食料生産は、今後50年程度は、気候変化による悪影響は受けないと予測されている。しかし、アフリカをはじめとする熱帯・亜熱帯地域での穀物生産量は50%以上減少することが予想され、栄養不良者の増加が懸念される。
温暖化に立ち向かうための行動を、「個人」と「公共」に分けて提案している。個人による温室効果ガス排出量の削減は少なくとも、家庭でのエネルギー節約、ゴミの減量、公共交通手段の利用など、関心を持って生活することが重要であり、実施できる有効な対策である。そして、温室効果ガスの大幅な削減には、政府、企業、市民団体の決断、行動が必須である。本書は、差し迫った地球温暖化問題の解決に、個人としても果たすべき責任があることを告げている。
目次
序言
はじめに
重要用語の定義
PART 1 温暖化の兆候
危険信号
極域の温暖化
氷河の後退
日常的な極端現象
PART 2 温暖化を強いる
温室効果
気候システム
過去の気候の解釈
将来の気候を予測する
PART 3 気候変化を駆動するもの
過去と現在の排出量
化石燃料
メタンその他のガス
運輸部門
炭素バランスを乱す
農業
PART 4 予想される結果
乱れた生態系
脅かされる給水
食料安全保障
健康への脅威
海面水位の上昇
危機にある都市
文化的損失
PART 5 温暖化への対応
国際的行動
京都議定書の目標達成
カーボン・トレード(炭素取引)
対応策への資金提供
地方の関与
二酸化炭素と経済成長
再生可能エネルギー
温暖化への適応
PART 6 解決策への約束
個人の行動
公共の行動
PART 7 気候変化データ