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情報:農業と環境 No.89 (2007.9)
独立行政法人農業環境技術研究所

公開セミナー「外来植物のリスクを調べて蔓延を防止する」が札幌で開催された

平成19年8月4日、北海道大学(札幌市)で、公開セミナー 「外来植物のリスクを調べて、その蔓延を防止する―北海道地域での問題点および緑化植物の利用とリスクについて―」 が開催されました。

このセミナーは、科学技術振興調整費による重要課題解決型プロジェクト 「外来植物のリスク評価と蔓延防止策」 のアウトリーチ活動として、北海道大学の後援を得て、一般市民や学生の方を対象として開かれました。

第7回となる今回のセミナーでは、これまでに得られた研究の成果を発表するだけでなく、とくに北海道地域で問題となる牧草や飼料由来の外来植物、今後問題となりそうな緑化植物に重点を置いて、北海道から全国に広がったとされるセイヨウタンポポや園芸植物から逸脱する可能性のある外来植物の取り扱いについても論議しました。

講演等の概要

1) 北海道における牧草栽培とその雑草化

山田敏彦 (北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)

牧草は重要な作物であるが、そのすべてが外来種(環境省の定義する明治元年以降に導入された外国の植物)であり、イネ科牧草の多くが要注意外来生物リストに挙げられていること、牧草なくしては畜産業は成り立たないことを話されました。研究面では、細胞質雄性不稔 (細胞質の遺伝子によって引きおこされる雄しべや花粉の異常で種子ができない現象) の牧草品種が育成されていることが紹介されました。

2) 北海道のタンポポと外来種タンポポの関係

保谷彰彦 (農業環境技術研究所)

従来、外部形態からセイヨウタンポポと思われていた個体が、実は日本のタンポポとの雑種であり、しかもその割合は8割を上回る高いものであるという、農業環境技術研究所で明らかにされた知見を紹介しました。さらに、北海道には本土にはまれな純粋なセイヨウタンポポが分布し、雑種性タンポポの定着は少ないこと、北海道在来種とくに高地性の2倍体タンポポは雑種をつくりにくいことも紹介しました。

3) 外来植物が好きな土、在来植物が好きな土

平舘俊太郎 (農業環境技術研究所)

在来植物は土壌酸性が強く養分の少ない日本の本来の土壌に適応しており、外来植物は中性で養分の多い畑に改良した土壌に生育しやすいという仮説を提示し、その実証にむけて蓄積中のデータを紹介しました。

4) 非意図的に輸入穀物や飼料に混入してくる外来雑草の問題

小沼明弘 (農業環境技術研究所)

輸入穀物に混じって侵入する雑草の種類とその対策について紹介し、とくに外国で強い除草剤抵抗性を持つようになった雑草が侵入してくることの危険性を指摘しました。

5) 現在、日本にはどのような外来植物が蔓延し、何が問題となるか

楠本良延 (農業環境技術研究所)

研究プロジェクト(「外来植物のリスク評価と蔓延防止策」)で明らかになってきた外来植物の蔓延状況について、とくに問題となる植物を紹介しました。ナガエツルノゲイトウなど、すでに特定外来生物に指定されている植物の危険性が高いことを明らかにしています。

6) アレロパシーや毒性が強く、侵入すると問題となる外来植物

藤井義晴 (農業環境技術研究所)

外来植物の中でもとくに注意すべき有毒植物や、植物に含まれる成分が他の生物に影響を及ぼすアレロパシー作用の強い外来植物による生態系への影響について紹介しました。北海道で雑草化しているコンフリーに含まれる肝臓毒性物質と他感物質が同定されました。また、重要な蜜源植物ですが、おう盛な生育のため要注意外来生物に指定されたニセアカシアにシアナミドが含まれることを明らかにしました。

7) 北海道の在来野草を利用した外来植物の防除と植生回復法の検討

入山義久 (雪印種苗北海道研究農場)

ノコギリソウやエゾノコンギク、エゾヨモギなど、北海道在来の7種の野草を利用した植生復元試験について紹介がありました。

8) 北大に蔓延する外来植物

近藤哲也 (北海道大学農学研究院)

9) 北大植物園で見られる外来植物とその管理

冨士田裕子 ・ 持田 大 (北海道大学北方圏フィールド科学センター植物園)

北海道大学構内と附属植物園においてフィールドセミナーが行われました。北海道大学北方フィールドセンターの荒木肇教授の指導の下で、具体的に問題となっている外来植物を観察しました。管理・防除法についても紹介されました。

当日は北海道に台風が接近し、終日雨模様でしたが、定員150名の会場がほぼ満員になる盛況であり、植物園でのフィールドセミナーにも、雨の中で70名の参加者がありました。熱心な参加者からの質問に答えるなど、充実したセミナーになりました。

今後、このような一般向けの公開セミナーを、平成19年10月22−23日に開催されるNIAES国際シンポジウムに併設して開催し、口頭発表とポスター発表を行います。また平成20年2月下旬にも、つくば市あるいは東京で公開セミナーを開催する予定です。「外来植物のリスク評価と蔓延防止策」 プロジェクトは、本年度で終了するため、このセミナーが最後の公開セミナーとなります。これまで関心がありながらご参加になれなかった皆様は、ぜひこの機会にお越し下さい。

また、「外来生物のリスク管理と有効利用」をテーマとする日本農学会シンポジウムが、本年(平成19年)10月13日(土曜日)に、東京大学弥生講堂で開催されます。本研究プロジェクトの成果の一部も紹介されますので、ぜひご参加下さい
http://www.ajass.jp/symposium.html )。

本研究プロジェクトの成果、これまでの公開セミナーの内容や質疑応答などは、下記のWebページで紹介しておりますので、ご参照下さい
http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/project/plant_alien/index.html )。

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