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情報:農業と環境 No.90 (2007.10)
独立行政法人農業環境技術研究所

第7回有機化学物質研究会 「農薬のリスク管理に向けて―ライフサイクルアセスメントを考える―」 が開催された

近年、化学製品の環境への負荷に対して、資源利用、製品の製造・使用・リサイクルから廃棄に至るまでを評価するライフサイクルアセスメント (LCA) の考え方が導入され、国内でも環境保全型社会やゼロエミッションを目指した様々な取り組みがなされています。農業場面においては、地球温暖化や富栄養化を柱として、温室効果ガスや畜産廃棄物などを中心にLCA研究が進められてきましたが、農薬については、農業におけるLCA研究の中で作物生産現場における位置付け程度にとどまっています。

そこで、去る9月19日、第7回有機化学物質研究会が、「農薬のリスク管理に向けて」 を翌日の第24回農薬環境動態研究会と共通のメインテーマとし、「ライフサイクルアセスメントを考える」をサブテーマとして開催されました。具体的には、LCAの視点から実施された各種取り組みについて紹介することにより、LCAと農薬との関連について理解を深めるとともに、農薬のリスク管理に関する今後の研究方向を検討しました。6名の講師の方々に講演していただき、その後に総合討論をしました。

都道府県の試験研究機関、行政、植物防疫関係団体、農薬メーカーなどから、約110名の参加者がありました。

開催日時: 平成19年9月19日(水曜日)

開催場所: 農業環境技術研究所 大会議室

参加者数: 107名 (農環研:38名、 他の独立行政法人:15名、 大学:1名、 公立試験研究機関:35名、 行政:5名、 関連団体:13名)

講演の内容

講演1では、「環境保全型社会に向けてのLCAの役割」 の演題で、エコマネジメント研究所の田中浩二氏から話題提供がありました。まずLCAの概念、構成、長所・短所などについて、ISO14040 との関連性も含めて説明がありました。その後LCAにかかわる国際会議、わが国の行政、LCA学会での取組みについて報告があり、最後にLCAの環境保全型社会における役割と今後の課題についてまとめました。

講演2では、「地域LCA手法の開発と適用」 の演題で、産業技術総合研究所・LCA研究センターの玄地裕氏から話題提供がありました。はじめにLCAを地域活動に活用するにあたり、LCAに必要な地理や時間的条件などに関する考え方、地域LCAの手順を紹介し、その後、千葉県におけるバイオマス資源としての畜産廃棄物の処理方法、また三重県ではまちづくりのための都市計画へのLCAの導入事例が具体的に紹介されました。

講演3では、「農業場面におけるLCAの取り組みと今後の課題」 の演題で、農業環境技術研究所の三島慎一郎氏から話題提供がありました。海外および国内で取り組んできた農業におけるLCAの導入事例を、二酸化炭素、窒素、リンを中心に紹介しながら、そこにおけるLCAの問題点を、LCAの範囲(ゆりかごと墓場)や農薬の評価方法の観点から指摘するとともに、農業LCAの将来像についても言及しました。

講演4では、「農薬開発における生態影響評価 (LCAの視点から)」 の演題で、日曹分析センターの雜賀修氏から、特にEUを中心に話題提供がありました。農薬登録における生態影響評価について、暴露評価と毒性評価を組み合わせたリスク評価について紹介されました。またその特徴として、代表種、段階的評価、評価の重みづけ、規制の方法などについても示されました。

講演5では、「土壌汚染によるリスク低減技術のLCA解析」 の演題で、名古屋大学の井上康氏から話題提供がありました。特定の汚染サイトに対する対策を比較する場合には機能単位の統一が必要なこと、リスク低減化におけるインパクトカテゴリーも一般的な製品のLCAと共通していることが示されました。また、具体的な低減化技術間の比較では浄化期間や経済特性 (コスト) を考慮すべきであることが説明されました。

講演6では、「農業生産システムのLCAにおける農薬の影響評価をめぐって (経済性と環境影響を考慮した作物保護へのアジェンダ)」 の演題で、中央農業総合研究センターの林清忠氏から、話題提供がありました。まずLCAとリスク分析の違い、および農業生産LCAにおける農薬の位置づけが示されました。農薬のLCAについては、農薬のLCIA(ライフサイクルインパクトアセスメント)と農薬製造場面におけるLCI(ライフサイクルインベントリー)分析について、シミュレーションモデルとともに紹介されました。最後に農薬の環境影響評価モデルを利用しつつ、経済性も考慮した解析結果と今後の課題が示されました。

最後に総合討論(パネルディスカッション)が行われ、農薬とライフサイクルアセスメントについてさらに議論が深められるとともに、我が国におけるこれらの研究の緊急性・重要性が再認識されました。

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