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情報:農業と環境 No.95 (2008.3)
独立行政法人農業環境技術研究所

本の紹介 251: 農と環境と健康、 陽 捷行 著、 アサヒビール株式会社 発行、 清水弘文堂書房 (2007) ISBN 978-4-87950-585-9 C0040

地球環境が狂ってきている。地球温暖化、オゾン層破壊、土壌侵食、砂漠化、地下水汚染などなど・・・環境の変化が人間生活に深く影響を及ぼすようなった。急速な人口増加に伴って今後の食料確保は大丈夫か。近代技術により豊かな生活が可能になったが、環境汚染をもたらし、物質循環やエネルギーの流れを大きく変えたのではないか。さらに、新型インフルエンザの出現、マラリアや熱射病の大発生なども懸念されている。

著者は、「地球環境の変動は、いつの時代も食料を提供する農業と、人の健康と生命を守る医療に密接に関わっている・・・農学と医学には、環境を背景として常に類似性が認められる」 と述べている。農業・環境・医療は分離されるべきものでないとの考えに基づき、北里大学はこれまでの生命科学に 「環境」 の視点を付加した 「農医連携」 の構想を打ち出し、新たな取り組みが開始された。本書は、2005年5月より毎月発刊されている、北里大学学長室通信「情報:農と環境と医療」 (ページのURLが変更されています。2014年12月) に掲載された内容を加筆・修正し出版されたものである。

現在の農・環境・健康をめぐる世界およびわが国の動向について、影響の実態と問題解決に向けた対策技術などを、国際的な取り組みとともに紹介している。この中で、西洋医学を中心とする現代 (近代) 医学を補完する 「代替医療」 や、現代農学を環境への負の影響を低減させる 「代替農業」 の視点から見直すことが、農医連携の基礎として重要であると強調している。

農・環境・健康を連携させる取組みが、国際機関や大学などの現場で着実に増えていることを紹介している。人間の生存は自然と共生することで達成され、環境を無視した経済開発はありえない、本書のはじめに記された 「われわれはなぜ、人類や文明がいま直面している数々の驚異的な危機に思いが及ばないのだろうか」 に対する回答を模索して、早急な解決策の提示、行動が求められているように思える。

さらに、最終章の 「農・環・医 言葉の散策」 は 「語源を訪ねる 語意の真実を知る 語義の変化を認める そして 言葉の豊かさを感じ これを守る」 とあるように、歴史的な変化や、世界中での言葉の使われ方について明快に整理されており、一瞬にもの知りになったような気持ちになる。事典や史書など多種多様な情報源から 「言葉」 が説明されており、自然に興味がわいてくる。

著者は、環境問題に関わる先導的研究者として地球環境の変動実態を監視し、また、安全な食料確保のために農業環境の保全に向け、複眼的な思考で国内のみならず国際的にも多くの提言をしてきた。本書は、「農・環境・健康」 にむけた識見と情熱、さらに、科学的な内容を理解しやすくする卓越した表現力でまとめられている。地球環境問題に対し、われわれがどのように取り組むべきかを示唆する良書であり、一読をおすすめする。

目次

はじめに

「情報:農と環境と医療」発刊にさいして

農・環境・健康をめぐる諸問題 <世界の動向>

紫外線予測と紫外線の害作用

「人と動物の関係学」あらまし

アスベスト問題のこれまで

鳥インフルエンザ

代替農業と環境保全型農業

代替医療とeCAM

気候変動と健康影響

農・環境・健康から見た水問題

土壌侵食とマラリア流行が文明を崩壊?

Agromedicine を訪ねる Jounal of Agromedicine

Medical Geology, Geomedicine を訪ねる

農・環境・健康をめぐる諸問題 <日本の動向>

温暖化による永久凍土の後退

東京の熱帯夜の増加

尾瀬のミズバショウの富栄養化

巨大クラゲの大発生

マイワシの漁獲量激減

漂流ごみの増加

サンゴの白化現象

病原虫や耐性菌による野生生物汚染 ライチョウにおける伝染病

アルゼンチンアリ

カエルツボカビ

子どもの喘息

スギ花粉症緩和米の研究開発

農・環境・健康 連携の現場 <世界の取組>

1.国際窒素イニシアティブ (INI)

2.地球圏−生物圏国際協同研究計画 (IGBP)
─地球環境変動と人間の健康

3.オランダ・ワーヘニンゲン大学

4.国際土壌科学会議−土壌と安全食品と健康

5.アメリカの農医連携教育・研究

農・環境・健康 連携の現場 <日本の取組>

1.千葉大学環境健康フィールド科学センター (その1)

2.千葉大学環境健康フィールド科学センター (その2)

3.わが国の大学における 「人と動物の関係学」

4.伴侶動物の腫瘍の早期診断に有効なPET検診

5.健康長寿社会を創出するための医工農連携プロジェクト
─あらたな人体解析システムの確立と地域に根ざした機能性食品の開発

6.早稲田大学先端技術・健康医療融合研究機構 ASMeW

7.ILSI Japan

8.高知大学農学部−環食同源プロジェクト研究

農・環・医 言葉の散策

「医」 と 「医療」 の由来 / 「医」 のことわざ / 生・老・病・死 / 生・老・病・死のことわざ / 「農」 と 「農のことわざ」 / 環境 / 元気 / 土は生きている 「土-生-世-姓」 / 言葉と散策の語源 / 気 / 「農」 と 「環境」 と 「医療」 −漢字研究の泰斗、白川静博士を悼む / 連携 / 獣 / 分・解・判・弁・別・わかる / 情報

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