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情報:農業と環境 No.98 (2008年6月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

第30回農業環境シンポジウム 「温室効果ガス排出をどう削減できるのか 〜農林水産分野における地球温暖化防止対策〜」 が開催された

昨年(2007年)、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第4次報告書 が公表され、地球温暖化が確実に起こっていること、その原因は人間活動による温室効果ガスの増加であることが報告されました。これに対して、温室効果ガス排出の削減をめざす京都議定書が、議決から10年の時を経て、本年度から2012年度までの第1約束期間をスタートさせました。

わが国はこの期間の排出量を、基準年である1990年の排出量から6%削減することになっていますが、わが国の温室効果ガスインベントリによると、2006年の時点で、逆に6.4%増加しています。

そこで、去る5月14日、第30回農業環境シンポジウムを 「温室効果ガス排出をどう削減できるのか〜農林水産分野における地球温暖化防止対策〜」 というテーマで、農林水産分野においてどのような対策が考えられるのかを広く一般の方にも理解を深めていただくことをめざして、東京の新宿明治安田生命ホールで開催しました。

当日の参加者は328名で、その内訳は、行政38名、研究所・大学73名、企業・関係団体等107名、マスコミ22名、個人を含むその他の参加者54名、農業環境技術研究所34名でした。

講演者と講演内容

1.波多野隆介(北海道大学): 温暖化緩和に対して農林業へ期待するもの

当日資料 [PDF]

京都議定書の目標を達成するためには、農林業活動の実態を把握し、発生量の多い部分に対して改善策を示すことが戦略的に必要であるとのことから、地球の炭素分布、その温暖化影響および生態系への炭素蓄積について解説がなされ、それらに対する農林業の影響や管理のあり方がほ場スケールから地域スケールを対象として述べられました。

2.石塚 森吉(森林総合研究所):森林部門における吸収源機能のポテンシャルを探る

当日資料 [PDF]

森林部門における炭素循環、京都議定書における二酸化炭素吸収量の算定方法と日本の取組みについて解説された後、第1約束期間以降では、森林管理を通した維持・増加、木材製品としてのストック、代替エネルギーとしての木材の利用を考慮すべきことが述べられました。

3.白戸 康人(農業環境技術研究所):土壌炭素を増やす農地管理が温暖化を緩和する

当日資料 [PDF]

農耕地では、土壌への炭素蓄積が吸収源とみなされ、その量は植生の3倍、大気の2倍と大きいこと、土地利用や管理方法でその量は変動することが解説されました。そして、日本の土壌炭素の変動とその要因、モデルを用いた将来予測の可能性について述べられ、土壌への有機物施用は肥沃(ひよく)度の増進、地球温暖化防止のために重要であるが、過剰な施用は問題を引き起こすことから、適切な施用が大切であることが指摘されました。

4.八木 一行(農業環境技術研究所):農耕地土壌からの温室効果ガスの排出抑制技術

当日資料 [PDF]

農耕地から発生する二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素を抑制するために、有機物管理、水管理、施肥管理などの技術が多数提案されており、それらの効果が大きいことも現地試験で確認されていること、コスト面からも、労力面からも実用の可能性が高く、広域での温室効果ガス削減が期待されることが述べられました。そして、今後はこれらの技術を発展途上国にいかに導入していくかが大切であることが強調されました。

5.長田 隆(農研機構・畜産草地研究所):畜産からの温室効果ガスの排出抑制技術

当日資料 [PDF]

家畜の消化管内発酵、排泄(はいせつ)物およびその処理過程から発生するメタンと亜酸化窒素の発生抑制について、消化管内発酵に対しては栄養管理や脂肪、ポリフェノール等の添加物による胃の中の発酵を制御する技術、排泄物からのメタンに対しては通気など酸化的条件を作ることが有効であることが紹介されましたが、亜酸化窒素については、酸化でも嫌気のいずれの条件下でも発生することから、その制御は容易ではないことが解説されました。

6.片山 秀策(農研機構・バイオマス研究センター):代替エネルギーとしてのバイオマスの活用

当日資料 [PDF]

温暖化の主要因となっている化石エネルギーの代替として期待されるバイオマスについて、その種類、それぞれの変換方法およびそれらの効率等が紹介されました。また、利用にあたっては食料との競合や土地、水、肥料、エネルギー等の制約条件があり、年間の生産量を考慮した利用が肝心であることが述べられました。そして、バイオマス利用の基本として、発生源の近くで使う、できるだけ変換しない、多段階で利用することを原則とすべきことが示されました。

これらの発表に対して、森林下での土壌蓄積、有機物施用による炭素蓄積と温室効果ガス発生とのトレードオフ、化学肥料使用の影響、農業分野の排出権取引参入への可能性などについて会場との質疑が交わされました。また、いずれの課題も、技術の導入の際にはLCA(ライフサイクルアセスメント)評価を通した検討が欠かせないことが指摘されました。

また、参加者にアンケートをお願いし、141名の方から回答が得られました。多くの方が温暖化、食料生産に関心を持っており、今回の発表の中では、農耕地土壌への炭素蓄積、温室効果ガス発生抑制に興味を持ったという回答が多いのが特徴でした。報告については、「内容が充実していた」、「素人にもわかりやすかった」など好意的な意見が多くありました。また、発表時に使用した資料を公開してほしいとの要望も多くあり、現在準備を進めています。

最後に、昨年12月に開催した 温暖化適応策のシンポジウム とともに、7月に開催されるサミットに向けて、来場された方、この報告を読んでいただいている方々の興味と理解が少しでも高まったことを、主催者として期待しています。

基調講演をする波多野北海道大学教授(写真)

基調講演をする波多野北海道大学教授

講演を聞かれる参加者のみなさん(写真)

講演を聞かれる参加者のみなさん

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