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情報:農業と環境 No.99 (2008年7月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

本の紹介255: ウナギ −地球環境を語る魚−、井田徹治著、 岩波書店(2007) ISBN978-4-00-431090-7

日本人の大好物ウナギ。コンビニにも並んでおり、手ごろな値段で食べられる今や身近な食品である。副題にある「地球環境を語る魚」との関係があまりピンとこなかったが、読んでみて考えさせられた。一つはそのなんとも不思議な生態。進化の妙というか、まさに生命の不思議である。もう一つは資源の減少。ヨーロッパでは絶滅危惧(きぐ)種に指定され、日本でも絶滅が危惧されている。その大きな原因は、世界の7割の資源を消費する、日本人の食にあるという。

かつては多くの川や湖でとれたウナギの漁獲量は、1970年代以降急減し、養殖ウナギとなるシラス(ウナギの稚魚)も同様である。しかし、日本の状況はまだましな方だという。北米、欧州、日本のシラスウナギの漁獲量は、いずれも急激に減少しており、とくに欧州ウナギの減少量は日本よりもはるかに深刻である。その一方で、日本人が食べるウナギの量は、過去15年ほどの間に急増した。絶滅がもっとも危惧されている欧州ウナギの多くは、シラスが中国へ送られてそこで養殖され、日本に輸出されている。

ウナギの生活史は不思議に満ちている。卵から孵化(ふか)した仔魚(しぎょ、レプトセファルスという)は、ほとんど自力で泳ぐことはなく、長い時間をかけて浮遊生活をし、とてつもなく長い距離を移動してやがて沿岸にたどり着き、川に上る。この段階がシラスウナギである。シラスウナギの体長は、レプトセファルスよりも小さくなっているという。浮遊生活といっても、産卵場所からうまく黒潮に乗り、めざす沿岸に近づいたときに首尾よく黒潮から降りなければならない。そのタイミングは、変態とも合っていることが必要である。川を遡上(そじょう)しはじめるタイミングは、潮の流れや水温が重要と考えられている。群れを作って、川をいっせいに遡上するシラスウナギは、養殖ウナギの原料として高値で取引されるため、大量に捕獲され、養殖の原料となる。捕獲をまぬがれたとしても、ダムをはじめとする障害物が続く河川をさかのぼるのは、容易なことではない。またいくらさかのぼっても、えさを得て生活できる場所は、大きく減少してしまった。運よくすみかを見つけたウナギは、オスは3−5年、メスは10年近くかけて成熟し、ふたたび川を下って海に出て、はるかな距離を移動して、産卵場所で産卵して一生を終える。

ウナギの産卵場所は、長い間の謎であった。欧州ウナギの産卵場所は大西洋の西インド諸島近く、サルガッソー海とされている。日本ウナギの場合は、日本のはるか南2,000キロ、マリアナ諸島西方の太平洋であることが、辛抱強い調査の結果、突き止められた。しかし、いずれの海域でも、卵を抱えたメスも、ウナギの卵も見つかっていない。産卵場は深海にそびえる海山の近くで、新月の夜、という説が出されている。しかし、成熟したウナギはどうやって川を下って産卵場までたどり着くのか、また、小さな仔魚はどうやってふたたび川までたどり着くのか。ウナギの生態に関しては、まだわからないことだらけである。それにしてもなぜ、このような広範囲の生態系を使って複雑な生活環をおくるような進化をとげたのか。

日本のウナギの漁獲高は近年激減しているが、中でも利根川・霞ヶ浦水系では減少が著しい。利根川は、1960年代半ばには1000トンのウナギの漁獲があり、全国の漁獲高のほぼ3分の1を占めていた。それが40年足らずの間に、シラスウナギはピーク時の65分の1、親ウナギは20分の1になってしまったという。利根川や霞ヶ浦・北浦のウナギ漁の崩壊を招いた最大の原因は、1971年に建設された巨大な河口堰(ぜき)と考えられている。常陸川逆水門が閉められた74年以降、有数のウナギの漁場であった北浦でも漁獲高は激減し、もはや産業としては成り立ちがたくなっている。ウナギを絶滅から救うためには、産卵場、浮遊する大海、沿岸の湿地、それに河川の下流から上流まで、広範囲に良好な環境が築かれていなければならない。しかし、日本では、ウナギの生態に関する調査はほとんど行われておらず、その実態は不明という。

日本人は、過去50年足らずの間のどこかで、ウナギとの付き合い方を間違えてしまったのではないかと著者はいう。一つは、河口堰や逆水門の建設に見るように、ウナギの環境を大切にしてこなかったこと、もう一つは、ウナギの食べ方の問題だという。かつては高級食品であったウナギが、いとも簡単に、驚くような値段で手に入るようになった。真空パックの加工ウナギばかりが増え、逆に焼きたてのかば焼きの味を知っている人がどんどん減っている。このことは、日本のウナギ食にとって、不幸なことではないかと著者はいう。

ウナギの資源保護は、最大の消費国である日本の責務であろう。食を通してグローバル化の時代の環境問題を考える、格好の材料ともいえよう。

目次

第1章 ウナギという生き物

第2章 産卵場所の謎を追う

第3章 ウナギを増やせるか

第4章 欧州では絶滅危惧種?

第5章 日本のウナギも減っている

第6章 ウナギと日本人

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