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情報:農業と環境 No.100 (2008年8月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

IGARSS2008: 国際地球科学およびリモートセンシングシンポジウム (2008年7月、米国(ボストン)) 参加報告

IGARSS は国際電子電気技術学会の主催で NASA や JAXA など多くの宇宙開発関連機関が後援して、年に1度行われるリモートセンシングに関する世界有数の国際研究集会です。28回目となる今年は7月7日から11日までボストン市で行われ、約50カ国から約1,400人が参加しました。発表内容は、世界各国での衛星センサの開発計画や陸域生態系の観測手法についての研究をはじめ、リモートセンシングに関する基礎〜応用、地球観測政策、環境教育への活用など、たいへん幅広い分野を網羅しています。

写真1

写真1 会場となったヘイネス国際会議場
レッドソックスのホーム球場はこの左奥方向にある

筆者は今回ふたつの講演を行い、ひとつのセッションチェアを担当しました。また、以前から共同研究を続けているポーランド研究者が連名で発表しました。筆者の講演のひとつは、「陸域生態系の植物機能の評価」 セッションの 「植物の光合成における光利用効率のリモートセンシング」 に関するもの、もうひとつは、「農林生態系の土地利用変化の検出」 セッションの 「衛星画像による東南アジア山岳地帯焼畑生態系の炭素動態評価」 に関するものです。後者はこの研究集会のために渡米する2日前にプレスリリースを行った成果です。どちらの発表も、作物の生産力や森林資源の保全、さらには大気と生態系間のCO交換など農林生態系の機能の広域評価に関するものでしたが、発表直後から、NASA をはじめ各国の研究者から多くの質問やコメント、新たな研究アイデアの提案などがあい次ぎ、世界的にもホットな研究テーマであることを再認識しました。

また、このほかにも非常に多くのセッションで、農林生態系を対象とした植物、水、窒素、炭素、汚染物質など、食糧生産と環境保全にかかわる研究発表が多数行われました。アジア・アフリカ・南米など途上国の研究者からの発表も多く、研究レベルはやや玉石混交といった面もありましたが、これらの諸国を含む多数の地域・国家で、農業をはじめとする陸域生態系の諸問題に関して、空間情報技術による評価、監視、予測、施策、教育の重要性がますます高まっていることは間違いないといえます。このことは、NASA によって紹介された今後15年間の衛星による地球観測計画にも明瞭に反映されています。とくに、衛星観測とともに、大気、陸上生態系、海洋・海底生態系における各種センサによる地上や大気の実測データ・情報との統合と活用の促進が今後の重要なテーマのひとつであることが随所で強調されていました。

写真2

写真2 スペイン若手研究者(中央)のポスターの前で

農業環境技術研究所は、局所〜地域スケールで生態系と環境資源の広域評価や監視に関する空間情報技術研究を担当する国内有数の専門部門をもっています。今後、国内外の機関と連携してさらに先導的な研究を進めること、ならびに将来に向けた地域〜地球スケールで諸問題への対応施策を支える国際的な生態系観測連携網を構築することが重要との感を強くしたところです。筆者は、ボストンでのこの研究集会から帰国後1週間をおいて、現在、オランダ(エンスヘーデ(Enschede))にある「国際空間情報科学および地球観測科学研究所」に滞在して生態系計測研究を進めています。ここでの OECD 共同研究をふまえて、このような世界の関連研究機関が連携するためのスキームの構築にも貢献できればと考えています。

今回の国際研究集会では、世界各地からの旧知の研究者と親交を深める機会になっただけでなく、若手研究者からの個人的なコンタクトも多く(写真2)、さまざまな地域に予期せぬ知己が新たに生まれたことも、セレンディピティのひとつといえそうです。その意味でも、今回の IGARSS 参加もいつも以上に有益なものとなりました。

写真3

写真3 会場への途上、MS犬親子(わが家とまったく同じ)に出会い、つい犬談義に。

写真4

写真4 最上階から見たボストン市
右にボストン大、対岸にMITやハーバード大などがある。

会場となったヘイネス国際会議場は、米国では古い歴史のあるボストンの中心部にあり、会場に向かう街並みはヨーロッパ由来の雰囲気が残り、散策している人たち(写真3)やタクシー運転手などとの話からも、クリーンで住みやすい街との印象を受けました。毎夕、飛行船が上空を遊覧飛行しており(広告だけでなくリモートセンシングにも使える)、ボストン湾では常時 Whale Watch Cruise ができるそうで観光面でも充実しているようです。ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学、ボストン大学など、世界有数の大学が所在し(写真4)、また街角ではレッドソックスの熱烈なファンが多いことも垣間(かいま)見ることができます。

次の国際研究集会は、来年7月に、南アフリカのケープタウンで行われる予定です。

(生態系計測研究領域 井上吉雄)

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