サステイナビリティは21世紀のもっとも重要なキーワードであるが、「サステイナビリティ学」 という学問は、まだ耳新しい。
本書は、11の大学と研究機関により2006年からスタートした、「サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)」 に参加している茨城大学で、教養科目 「サステイナビリティ入門」 を担当した教員が中心になって執筆したものである。連携研究機構(IR3S)ではサステイナビリティ学を、「地球システム、社会システム、人間システムの3つのシステムおよびその相互関係に破綻をもたらしつつあるメカニズムを解明し、持続可能性という観点から各システムを再構築し、相互関係を修復する方策とビジョンの提示を目指すための基礎となる学術であって、最終的には持続可能な社会の実現を目指すもの」 と定義している。
第I部 「サステイナビリティの誕生」 では、すでに地球の環境容量を超えつつある現状について、人口、生産・消費活動、環境負荷などの具体的なデータを提示し、直面している地球規模の問題の現状把握を行っている。その上で、1972年の国連人間環境会議(ストックホルム)以降のサステイナビリティに関連した国際的取組み、サステイナビリティ学創成の経緯を紹介する。章末に、エネルギー、食糧、廃棄物、CO2などの資料が掲載されている。
第II部から第IV部は、サステイナビリティ学の実践である。
第II部は地球システムへのアプローチで、ここでは、物質循環を担う微生物の役割、日本の森林の現状と今後の取るべき方向、地球温暖化が不可避との認識の下で必要となる対応、気候変動によって引き起こされる大規模な複合地盤災害等について、解説されている。
第III部は社会システムへのアプローチで、ここでは廃棄物問題と食料問題、複合災害としてのハリケーン・カトリーナの被害とその結果明らかになったアメリカ社会が抱える貧困や人種問題、近代化の功罪や科学技術進歩の否定的側面等について、言及されている。
第IV部は人間システムへのアプローチで、温暖化による健康影響、大規模自然災害が人々の心に与えた影響等について、さらには安全保障の問題について、述べられている。
最後の第V部 「サステイナビリティ学の展望」 では、気候変動に対する適応策について解説し、サステイナビリティというキーワードが学問分野を越えて研究者を結びつけていること、人間科学の研究においては対話そのものが重要であることが強調され、最後にサステイナブルな生き方について、提言している。
環境問題、食糧問題、エネルギー問題が加速度的に深刻さを増す中、循環型社会の構築に向け、分野を超えた協働の必要性が強く叫ばれている。まずは、自然科学、社会科学、人間科学の相互の理解の増進が急務といったところか。
目次
第I部 サステイナビリティ学の誕生
1章 21世紀の諸課題とサステイナビリティ学
第II部 サステイナビリティ学の実践[1] 地球システムへのアプローチ
2章 地球環境を支える微生物たち
3章 日本の森林と持続可能性への展望
4章 地球温暖化問題の構造化
5章 複合地盤災害と適応
6章 地球システムの中の人間
第III部 サステイナビリティ学の実践[2] 社会システムへのアプローチ
7章 エミッションコントロールと対応策
8章 世界の食糧問題とサステイナビリティ
9章 ハリケーン・カトリーナとアメリカ社会:維持可能な発展へ向けて
10章 国境を超える社会問題
11章 社会システムへのアプローチ
第IV部 サステイナビリティ学の実践[3] 人間システムへのアプローチ
12章 気候変動の健康影響
13章 自然災害が人々の心身にもたらす影響:「心のケア」再考
14章 「稲むらの火」のモデル濱口梧陵:人間愛と機転に満ちたハードとソフトの適応策
15章 「開発」からの脱却と人間の安全保障
16章 人間システムへのアプローチ
第V部 サステイナビリティ学の展望
17章 サステイナビリティ学と適応:気候変動に対する適応策の検討
18章 サステイナビリティ学と対話の構造:インターローカルに生きる方法
19章 サステイナブルに生きるということ