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情報:農業と環境 No.101 (2008年9月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

第4回環太平洋農薬科学会議 (2008年6月、ハワイ(ホノルル)) 参加報告

この会議は、環太平洋地域(日本、アメリカ、中国、韓国、東南アジア諸国、オーストラリア、カナダ)の農薬科学の発展と研究者の交流を図ることを目的として、平成8年10月に、神戸市産業振興センターにおいて、第8回日中農薬学術交流シンポジウムと合同で、「環太平洋農薬学術交流シンポジウム」として、第1回を開催したことに始まります。第2回(平成11年10月)と第3回(平成15年6月)は、ハワイにおいて開催しましたが、そこから現在の会議名となり、以後アメリカ化学会の農薬部門と日本農薬学会との共催で開催し、今回(平成20年6月1〜5日)が第4回になります。

中国・四川で大きな地震災害があった直後で、中国の研究者がほとんどキャンセルになったものの、全体で237名の参加がありました。当研究所からは、毎年数名が参加していますが、今回は、藤井義晴、西森基貴、稲生圭哉、與語靖洋の4名が参加しました。下に示したように、会議は、基調講演、9つのセッション(口頭発表)、ポスターセッション、および2つのワークショップで構成されていました。藤井は「侵入生物」、稲生は「環境運命と影響」、西森は「レギュラトリーと作業者安全確保問題」のセッションにおいて、それぞれ口頭発表しました。報告者 (與語) は「環境運命と影響」のセッションとポスターセッションのオーガナイザーを務めるとともに、稲生らと連名でポスター発表をしました。

<会議日程>
月日 午前 午後
6月1日(日) ワークショップ:抗凝集殺鼠剤(さっそざい)の環境影響
6月2日(月) 基調講演
セッション:侵入生物
セッション:ヒトのベクター制御の進歩 I
セッション:環境運命と影響
6月3日(火) セッション:代謝と毒性
セッション:ヒトのベクター制御の進歩
ポスターセッション(20〜22時)
6月4日(水) セッション:農薬抵抗性
セッション:国際貿易問題
セッション:分析化学
セッション:レギュラトリーと作業者安全確保問題
6月5日(木) ワークショップ:農薬の生態リスク評価

基調講演では、Stephen Duke 氏(天然物質利用研究所、米国)の、「除草剤耐性遺伝子組換え作物が農業、環境および除草剤産業に及ぼす影響」 と題した発表がありました。

遺伝子組換え作物 (GMO) は、現在23ヶ国で商業栽培されています。GMOを導入したことで、防除効果が高まっただけでなく、不耕起栽培や農薬の処理回数を減らすことが可能となり、農業機械用燃料の削減や収量増から、農家収入が上がりました。一方、GMOを使うマイナス面として、除草剤抵抗性雑草の増加、遺伝子組換え作物の周辺の作物や自生植物との交雑などが懸念されています。また昨今では、複数の除草剤に耐性の遺伝子組換え作物 (スタック系統(交配育種による形質の付与)を含む) や、DNAシャッフリングという遺伝子を再構成する技術を利用した、より強い能力を持つ遺伝子組換え作物についても紹介されました。

科学的に興味深かったのは、これまでグリホサートの第一次作用点が、芳香族アミノ酸生合成経路の5−エノールピルビルシキミ酸−3−リン酸合成酵素(EPSPS)という酵素の阻害と考えられていたのが、その手前のシキミ酸経路も阻害することが最近になってわかってきたことです。報告者も光合成阻害型除草剤がリグニン生合成系を阻害することを示しましたが、除草剤がどのように作用して植物を枯らすのか、まだまだ研究する余地が残されているようです。

会議の内容を網羅的に知りたい方は、11月末に発行される日本農薬学会誌 (第33巻4号) に、この会議の報告が掲載される予定ですので、ご参照ください。

一般公演では、私が担当したセッションでの海外の方の発表だけを紹介します。

Scott R. Yates ら (USDA、米国)は、土壌くん蒸剤の大気中放出を低減するために、室内試験とシミュレーションモデルに基づいた農薬の大気への放出量の推定技術を開発しました。この方法は、ほ場試験に比べて、時間と費用を大幅に削減でき、結果のばらつきも少ないメリットがあります。

Thomas M. Young ら (Civil & Environmental Engineering、米国)は、高速道路わきに処理した農薬がクリークへどのように流出するか、またその主要な要因は何かを知るために、モンテカルロシミュレーションを利用して確率論的に解析しました。さらにそこで得られた農薬の動態予測の結果と水生生物に対する毒性データを組み合わせて、生態影響を評価しました。

Donald Mackay ら(トレント大学/カナダ)は、フガシティー(fugacity、逃散能、逸散度)という熱力学の考え方を導入して、水系における環境動態−食物連鎖モデルを構築しました。このモデルは、トレント大学のウェブサイトから無償でダウンロードできます。

Keith R. Solomon (グエフ大学/カナダ)は、両生類の成長、生殖、生存への影響から判断して、除草剤アトラジンを環境ホルモンであると結論した複数の研究における科学的な間違いを指摘しました。そこでの教訓として、科学的に仮説を証明するには、「試験生物を熟知した上で試験設計し、専門家が試験し、かつ結果を評価する必要がある。」という、科学者としては、ごく当たり前のことを最後に取りまとめていました。

ポスターセッションでは、以下の発表がポスター賞を受賞しました。いずれも研究内容が充実していて、ポスターの構成や著者の説明もわかりやすいものでした。

・ サソリの毒から抽出した殺虫活性を有したペプチドの単離

・ 河川中の抗生物質耐性細菌の探索とMALDI−TOF−MS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法と飛行時間型質量分析計を組み合わせたもの)の利用

・ ラット脳のシナプス前神経末端における電圧感受性カルシウムおよび塩素チャンネルとの交互作用によって放出されるグルタミン酸が付加したピレスロイド

・ パイオニア川流域のサトウキビ栽培地域における除草剤ジウロンの運命予測モデル

・ 根寄生植物とアーバスキュラー菌根菌における寄主認識シグナルとしてのストリゴラクトン類の性質

・ 好気的条件において3価鉄はアルキルフェノールポリエトキシレートの生分解に影響する

・ 新規殺虫剤フルベンジアミドの代謝における種および性による差異

今回の会議では、農薬のネガティブな影響に関する研究発表が多い傾向にありました。一方、農薬は農業資材として、我々の食料の安定供給や品質の向上に大切な役割を果たしています。農薬に限らず、あらゆるものがよい面と悪い面の両方を持っています。また、実際の効果や影響は、そのものが持つ能力(活性、毒性)と、それとの接触(吸収、曝露(ばくろ))の頻度・量・方法の両方が関与して現れます。農薬は、作物生産から環境やヒト健康影響まで、農薬のよいところ悪いところがどのように現れるのか、一貫してリスク評価やリスク管理することによって、より賢く利用してくことが今後とも大切と思います。

農薬を前面に出した国際会議は限られているため、本会議は地域が限定されているものの、この分野の世界の研究者が一堂に会するよい機会となっています。次回は4年後の開催を目途にしていますが、リピーターも含めて多くの研究者の参加を期待しています。

(有機化学物質研究領域長 與語靖洋)

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