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情報:農業と環境 No.101 (2008年9月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

論文の紹介: 土壌中の可給性カドミウムの簡易測定法
(ゲル薄膜を利用した手法(DGT法)による可給性カドミウムの測定法)

Use of the diffusive gradients in thin films technique (DGT) with various diffusive gels for characterization of sewage sludge-contaminated soils
Vladena Kovarikova et al.,
Analytical and Bioanalytical Chemistry, 389, 2303-2311 (2007)

農業環境技術研究所では、重金属汚染のリスクを評価する手法の一つとして、土壌に含まれる可給性カドミウム (植物に吸収されやすいカドミウム) の量を評価する方法を検討している。弱酸、中性塩、キレート剤など目的に応じた試薬で抽出されたカドミウムを可給性カドミウムとすることが多いが、抽出によらない方法も近年発達している。ここでは、土壌に接触させたゲル (寒天状の物質) 内を拡散移動したカドミウム量から、可給性カドミウム量を求める手法についての論文を紹介する。

この論文で用いられている手法は、Davison と Zhang (1991: Nature, 367, 546-548) が開発した 「薄膜中の拡散移動を利用した分画定量法(diffusive gradients in thin films、DGT法)」 に基づいたもので、適当な孔径を持つゲルとイオン交換樹脂を包含したゲルとを組み合わせた DGT ユニットを利用する。

水分を調整した土壌に DGT ユニットを接触させると、ゲル中を拡散移動したカドミウムがイオン交換樹脂に捕集される。DGT ユニットと接触した部分の土壌溶液中のカドミウム濃度が下がると、土壌から土壌溶液にカドミウムが供給される。このとき土壌から供給されるカドミウムは植物に吸収されやすい形態のカドミウムなので、DGT ユニットに捕集されたカドミウム量は植物の根が吸収できるカドミウム量と考えられ、これを土壌重量あたりの量に換算したものが DGT 濃度と呼ばれている。DGT 法はカドミウムの定量分析が行える実験室であればどこでも実施できる手法であることから、今後広く普及する可能性がある。

本論文の著者らは、表層のカドミウム濃度が 3.15〜5.68 mg kg-1 の下水汚泥施用土壌にDGT法を適用した。孔径5nm 以上のゲルを使用したときの DGT 濃度は 0.0018 mg kg-1(pH 6.9 の表土) 〜 0.000014 mg kg-1(pH 7.4 の深土) の範囲にあり、土壌中のカドミウム濃度の 2,000 分の1以下、また、硝酸ナトリウムで抽出されるカドミウム濃度の 10 分の1以下であった。

DGT ユニットのゲルの孔径を適切に選択することにより、ゲル内を拡散移動できるイオンの大きさを制限できる点も DGT 法のメリットである。上記のように孔径5nm 以上のゲルを用いた場合、植物に吸収されやすいカドミウムイオンの総量を定量できる。孔径1nm 以下のゲルを用いた場合は、可溶性の有機物に結合したカドミウムはゲル内を拡散移動できないため、ゲル内を自由に拡散移動できる無機のカドミウムイオン (Cd2+ ) のみを定量できる。

孔径1nm 以下のゲルの DGT ユニットで求めた DGT 濃度を無機のカドミウム、孔径5nm 以上のときの DGT 濃度と1nm 以下のときの DGT 濃度との差を可溶性の有機物と結合したカドミウムとして分別を行った。その結果、有機炭素を多く含む土壌では、可溶性の有機物に結合したカドミウムに比べて無機のカドミウムの割合が顕著に高いものが認められた。この土壌では、有機物と結合したカドミウムが植物に吸収されない安定な形態で存在していることを示している。

DGT 濃度は土壌溶液中のカドミウム濃度より低い。その比率 ( DGT 濃度/土壌溶液中のカドミウム濃度、R 値) が1に近いほど、土壌から土壌溶液へのカドミウムの供給が迅速であることを示す。汚泥施用土壌のカドミウムの場合、表土の R 値は 0.96 以上であり、土壌から土壌溶液に、カドミウムが迅速に供給されている傾向を示した。

以上の結果より本論文の著者らは、DGT 法は植物に吸収されやすいカドミウム量と土壌から土壌溶液へのカドミウム供給能の評価に適用できると結論している。

農業環境技術研究所では、可給性カドミウムの評価法として最適な抽出法を検討するとともに、同位体希釈法 (安定同位体を土壌に添加して、同位体比の変化から評価する方法) による評価手法を検討している。同位体希釈法も植物に吸収されやすいカドミウム量と、土壌から土壌溶液へのカドミウム供給能の評価に使えることが明らかになりつつある。しかし、ヒ素など安定同位体のない元素の評価には使えず、また、同位体比の測定に質量分析装置が必要であるため、どこででも実施できる手法ではない。その点で、DGT 法は有力な評価手法になるであろう。

(土壌環境研究領域 川崎 晃)

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