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情報:農業と環境 No.103 (2008年11月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

第33回国際地質学会議 (2008年8月、ノルウェー(オスロ)) 参加報告

ノルウェー・コンベンションセンター(写真)

写真 会議会場となったノルウェー・コンベンションセンター
オスロの中心部から電車で20分ほどの郊外にあります。

国際地質学会議 (International Geological Congress) は、地質学の進歩を目的として3〜5年おきに世界各国の研究者が参加して開催されています。その歴史は古く、第1回の会議は1878年のパリ万国博覧会と同時に開かれたそうです。第33回の今年は、8月6日から14日まで、ノルウェーの首都オスロで開催され、113か国から 6,000 人以上の研究者が参加しました。なお、今回の会議開催は北欧5か国(アイスランド、フィンランド、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー)の共催で、会議前後のエクスカーションは北欧5か国に加えてロシアでも行われました。

地質学はとても間口の広い学問です。今回の会議で発表された研究は、地球内部のことから火星や金星の話まで実にさまざまで、すべてを把握することはとてもできませんが、気候変動が今回の大きなテーマのひとつでした。「過去の気候変動」、「気候モデル」、「二酸化炭素の地中貯留」など、20以上のセッションが開かれ、数百件もの研究発表が行われました。ただ、地質学というバックグラウンドのためか、温室効果ガスの発生量削減に関する研究は少なかったように感じました。

ポスター発表の会場で(写真)

写真 ポスター発表の会場で

筆者らは、水田からの温室効果ガスの発生量を数理モデルで予測する研究について発表しました。水田からは温室効果ガスである二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素が発生します。とくにメタンは、全世界の発生量のおよそ1割が水田由来であると考えられていますが、水田の水管理を工夫することで、低いコストでメタンの発生量を削減できることがわかっています。筆者らは、さまざまな条件で水田のメタン発生量を計算できる DNDC-Rice というモデルを開発しました。そして、このモデルを北海道の水田の土壌や栽培管理法のデータベースと組み合わせてシミュレーションを行い、水管理を改善することでメタン発生量を約30%削減できると予測しました。研究の対象が水田であるせいか、アジア系の研究者からの質問が多かったのですが、少し変わった質問で、「水田から発生するメタンを回収して利用できないか?」というものがありました。単位面積あたりのメタン発生量が少ないので技術的・コスト的に無理と思われますが、具体的な数字をあげて回答することができませんでした。自らの研究をアピールするためには、もっと広い角度から考えて念入りに準備すべきだったと感じさせられました。

午後8時を過ぎても明るいオスロの目抜き通り(写真)

写真 午後8時を過ぎても明るいオスロの目抜き通り
街灯には国際地質学会議を歓迎するのぼりが掲げられていました。

この会議では、生態系モデルや土壌微生物プロセスなど、筆者と関係の深い研究分野の興味深い成果も知ることができ、たいへん有意義な会議でした。ただ、予想はしていましたが、オスロの物価の高さには驚きました。ノルウェーの国民1人当たりのGDP (国内総生産) は、ルクセンブルクに次ぐ世界第2位で、日本の約2倍だそうですが、物価も日本の2倍くらいに感じました。たとえば、地下鉄や市電の運賃は、1時間以内なら乗り降り自由とはいえ最短区間で約 400 円、カフェでビールを1杯飲めばそれだけで 1,000 円以上かかります。学会の参加登録料の中に、会場までの電車賃(片道 1,000 円強)と昼食用サンドイッチの配給が含まれていたのが、とてもありがたく感じました。

次回の会議は2012年8月にオーストラリアで開かれます。

(物質循環研究領域 麓 多門)

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