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情報:農業と環境 No.105 (2009年1月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

第10回遺伝子組換え生物の安全性に関する国際シンポジウム (ISBGMO) (2008年11月、ニュージーランド(ウェリントン)) 参加報告

遺伝子組換え生物の安全性に関する国際シンポジウム (International Symposium on the Biosafety of Genetically Modified Organisms、ISBGMO) は、遺伝子組換え生物の安全性についての、ただひとつの国際シンポジウムで、1990年から2年に1回開催されています。

テパパ博物館の外観(写真)

写真1 シンポジウムが行われたテパパ博物館

2008年のシンポジウムは、ニュージーランドの首都ウェリントンで、11月17日から21日まで開催されました。大規模な遺伝子組換え作物の栽培を行っているアメリカやアルゼンチンはもちろん、(遺伝子組換え作物と遺伝子組換えでない作物の) 共存政策が進められているヨーロッパの国々、これから栽培が本格化するであろうアジアやアフリカの国々から、計38か国、200人以上の参加者が集いました。

このシンポジウムは、農業・環境関係の各国の機関や、種苗・農薬会社の研究者以外に、遺伝子組換え生物を扱う行政担当者や経済協力開発機構(OECD)からも多くの参加があり、遺伝子組換え作物の評価手法や法律の枠組みなどが議論される、国際的にも影響力の大きい会合です。そのため、特定の分野の専門家が集まる学術的な会合とは異なる雰囲気(ふんいき)がありました。そのような中、5日間にわたって、8つのセッションで、56の口頭発表、112のポスター発表がありました。

メイン会場の様子(写真)

写真2 メイン会場の様子

シーマン会長のあいさつをそのまま借りると、このシンポジウムの目的は、安全性研究の経験をもつ研究者と安全性評価の規制やプログラム作りを行う行政担当者が、情報を共有し、お互いのアイデアをオープンに交換することでした。そのためか、口頭発表はメイン会場のみで行われ、休憩のたびに、ポスターが並ぶ空間での情報交換や交流が行われました。

農業環境技術研究所の遺伝子組換え生物生態影響リサーチプロジェクトからは3名が参加し、それぞれ、次のポスター発表を行いました:

ダイズの花粉飛散実験に関して、南アフリカの研究者から、他殖率などについての質問を受けました。南アフリカではダイズ栽培の80%を除草剤耐性の遺伝子組換えダイズが占めており、遺伝子組換えダイズと非組換えダイズとの共存を行うためにも、このような基礎データの蓄積が重要であると、意見が一致しました。また、遺伝子組換えダイズとツルマメとの交雑については、わが国と同様に国内に自生地をもつ韓国や中国の研究者の関心が高く、この一連の研究が国際的な役割を果たしているという印象を受けました。

今回のシンポジウムには、「過去の達成と未来への挑戦」(PAST ACHIEVEMENTS AND FUTURE CHALLENGES)というテーマが付いていました。これは、このシンポジウムを通じて、より積極的に組換え生物の安全性評価の研究をアピールし、中心的な役割を果たそうという意気込みを示すもので、その方針どおり、リスクコミュニケーションのワークショップや市民フォーラムが開かれ、われわれのポスターも一般市民に公開されました。とくに、市民フォーラムでは、多数の一般市民と研究者の間で活発な意見交換が行われました。今回の会場である、テパパ(TE PAPA)は、地元のマオリ語で、「私たちみんなが集まる場所」 という意味だそうで、今回のテーマを象徴しているようでした。

会場から見た港の風景(写真)

写真3 会場から見た港の風景

報告者 (吉村)は、2004年のフランス大会、2006年の韓国大会に続いて3回目 の参加でしたが、上記のような事から、今大会の印象はいままでと異なり、消費者の立場に近づいたという印象があります。私なりの推測ですが、「遺伝子組換え作物が大規模に栽培されるようになって10年以上が過ぎ、各国の規制や枠組みもほぼ整い」、「交雑などに関する科学的な知見もある程度蓄積された」という背景があるのではないでしょうか。

とはいえ、現在もなお、新たな遺伝子組換え作物や動物などが開発されており、新しい生物のもつ特性に応じた評価方法や、新しい枠組みが必要となってきます。もちろん、それらは国際的にコンセンサスを得たものでなければなりません。このシンポジウムの役割は、今後もますます高まっていくと考えられます。われわれも国際的な基準や考え方を吸収しつつ、時代の流れに対応し、遺伝子組換え作物や日本農業そのものについて考えていかねばならないと、認識させられました。

(生物多様性研究領域 吉村泰幸)

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