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情報:農業と環境 No.107 (2009年3月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

GMO情報: 雨にも負けないバイテクコーン ―乾燥耐性品種の登場も間近

2009年2月11日、世界の遺伝子組換え作物の商業栽培面積 (2008年分) が ISAAA (国際アグリバイオ事業団) から発表された。総面積は2007年より約1千万ヘクタール (ha) 増えて1億2500万haに達し、商業栽培開始 (1996年) 以来の右肩上がりの増加を更新した。「世界で1億haを超えた(2006年)」、「アメリカのダイズの91%、トウモロコシの73%は組換え作物になった(2007年)」など毎年マスメディアから報道されるが、商業栽培はおろか、組換え作物技術に関心を持つ生産者の試行的栽培も行えない状況にある日本では、世界の栽培面積の動向にはあまり関心が向かないかもしれない。しかし、ヨーロッパ各国の浮き沈みや、日本にとって、カナダに次いで2番目の輸入国であるオーストラリアでも組換えナタネ(カノーラ)の栽培が始まるなど興味深い情報も含まれている。

3増1減で栽培国は25カ国に

2008年に組換え作物を初めて商業栽培した国は、アフリカのエジプト (Btトウモロコシ) とブルキナファソ (Btワタ)、南米のボリビア (除草剤耐性ダイズ) の3国で、途上国での組換え作物普及をめざす ISAAA はこの成果を強調した。一方、栽培をやめたのはフランスで、2007年秋、政府が栽培の凍結を宣言したためである。GMO情報 (農業と環境103号105号) でも述べているように、欧州諸国 (EU) の栽培禁止や輸入承認拒否の根拠は科学的と言うより、政治や経済が複雑に絡んでいる。今回の ISAAA の報告書でも、アジアやアフリカの途上国では生産者にメリットが理解され、組換え作物の栽培は増えていくだろうと予測しているが、西欧については 「科学や技術とは関係しない政治や活動家集団の思想的問題となっており、今後どうなるか予測は難しい」 となかばあきらめ気味である。

フランスの商業栽培中断は今回が初めてではない。1998〜2000年に小規模な栽培を行っており、その後ヨーロッパのモラトリアム (一時凍結) で2001〜2004年は中断し、2005年に再開した。500ha(2005年)→5000ha(2006年)→2万1000ha(2007年)と害虫抵抗性Btトウモロコシの栽培面積は次第に増加し、2008年は10万haをめざしていた矢先の栽培中止である。組換えトウモロコシの生産メリットを実感したフランスの農業者は栽培再開を強く求めており、欧州委員会もフランスの栽培禁止は科学的根拠がなく違法と判断している。しかし、欧州委員会の食品・飼料常任委員会 (2月16日) では、フランスの栽培禁止解除に必要な有効投票数が得られず、結論は次の会議に持ち越しとなった。EUでの承認手続きは複雑で時間がかかるため、2009年の栽培は困難なようだが、2010年に2度目の復活がなるか注目される。

EUでは2008年も、スペイン、チェコ、ルーマニア、ドイツなど7か国でBtトウモロコシが栽培されており、フランスの中止にもかかわらず、全体での栽培面積は増加している。とくに2007年のEU加盟で、今まで8年間栽培していた除草剤耐性ダイズ (EUでは未承認) の栽培ができなくなったルーマニアでの増加 (350ha→7200ha) が目立ち、組換え作物栽培を実際に体験した生産者がそのメリットを評価していることがうかがえる。

緊急課題の乾燥耐性品種

今回の ISAAA の報告書では、乾燥耐性 (drought tolerance) 組換えトウモロコシの開発を特集している。米国では早ければ2012年に商業栽培が始まり、アフリカの小規模農民向け品種も2017年の実用化をめざして開発が進められているという。米国の品種はシロイヌナズナ (アブラナ科) 由来の複数の遺伝子を導入したもので、いままでの品種なら50%収量減となるような乾燥条件でも、8〜22% (平均15%) 収量が増加する。モンサント社は2009年1月、乾燥耐性トウモロコシが研究開発の最終(第4)段階 (商品化可能性90%) に入ったと発表しており、2012年の商業化は現実味がある。同社は、さらにより効果の高い乾燥耐性系統の開発も第2段階 (商品化可能性50%) に入っており、今までの除草剤耐性と害虫抵抗性に続いて、乾燥耐性と肥料利用効率の高い品種の育成に多くの開発投資を行うと述べている。

乾燥耐性品種といっても、雨の少ない干ばつの年にはメリットがあるが、降水量に恵まれれば必要がなく、生産者へのメリットはそれほど大きくないのではと考えるかもしれない。しかし、現在開発中の乾燥耐性品種は乾燥ストレスに強いとともに、確実に農業用水を節約できる。日本のように梅雨があり、降水量に恵まれている国では実感しにくいが、米国のコーンベルトなど穀倉地帯は降水量が少なく、農業用水の多くは地下水のくみ上げに依存している。「センターピボット」 という半径数百メートルの自走式散水装置を使い、水や肥料、農薬を畑に散布するため、巨大な円形状の農地となっている。このような農地では毎年、栽培時期には定期的な散水が必要であり、地下水のくみ上げや農業用水の取得には費用がかかる。地下水の埋蔵量は無限ではなく、地下水位が年々低下しているため、くみ上げに要する燃料代も上昇している。仮に20%少ない水量で今までと同じ収量を得ることができるなら、生産に要する費用 (水代) を20%減らせることになる。30%節水できるなら、30%の経費節減につながり、生産者にとってはわかりやすい計算できるメリットだ。収量増によるメリットも大きいが、穀物価格の変動でその利益率は毎年変化する。しかし、水代は固定費用であり、この費用が減ることは確実に生産者の利益につながる。

アフリカ向けの乾燥耐性品種はバイテクメーカーが国際トウモロコシ小麦改良センター (CIMMYT) と技術協力して進められているが、米国など先進国向け品種とは違った課題がある。農業用水施設が整備されている地域はほとんどないので、水代の節約ではなく、干ばつ条件でも安定した収量が得られることが最大の目標となる。乾燥耐性という特質を安定して発現し高収量を得るには、先進国で用いられる交配品種 (一代交雑品種) を採用するのが望ましいが、アフリカでは小規模栽培の農民が多いため、放任受粉や自家採種によって種子を安く持続的に入手できる品種の育成が考えられていると言う。しかし、栽培密度を増やしすぎたり、雑草が生い茂ったままだと乾燥耐性品種の効果は十分発揮できないため、農民への適切な栽培指導が必要である。アフリカで乾燥耐性組換えトウモロコシが成功するには、品種育成だけでなく多くの課題を克服しなければならないと ISAAA のレポートは述べている。

2008年米国のトウモロコシ大豊作 陰の立て役者

最近は一段落したが、昨年 (2008年) はトウモロコシ、ダイズ、小麦など主要穀物の価格が値上がりし、6月下旬にトウモロコシとダイズの市場価格は過去最高を記録した。その原因の一つは米国中西部のコーンベルト地帯 (アイオワ、イリノイ、ネブラスカ州など) の大雨と大洪水である。ロイター通信 (2008/6/25) は 「洪水による農作物被害は全米で80億ドルに及び、これから天候が回復してもトウモロコシは16%減収し、穀物価格上昇に拍車をかけるだろう」 と報道した。しかし、その後天候に恵まれ、トウモロコシは史上2番目、ダイズは4番目の豊作となった。昨年暮れの米国の農業新聞では 「春の大雨、洪水でもトウモロコシが大豊作だったのはバイテク(遺伝子組換え)品種のおかげ」 という記事が目についた。トウモロコシの根を加害するネクイハムシに抵抗性を示すBtトウモロコシは、根が丈夫なため、乾燥条件でも水分をよく吸収できるメリットがあるが、水分の多い過湿土壌での効果は知られていない。ましてや洪水にも強い組換えトウモロコシはまだ開発されていない。どんな組換え品種を使ったのだろうか?

ネブラスカ州の地方紙 「グランドアイランド・インデペンデント」 (2008/10/20)によると、「中西部の農家は洪水のため、トウモロコシを6月下旬にまき直したが、アワノメイガ抵抗性のBtトウモロコシ品種がなければまき直しはせず、今年のトウモロコシの栽培をあきらめただろう」 と報じている。アワノメイガは中西部では5〜6月と7〜8月に発生し、後者の発生量が多いため、遅植えするほどトウモロコシの被害は大きくなる。Btトウモロコシ導入初期の1996〜1998年に大規模生産者を対象として実施されたアンケート調査 (Pilcher ら、2002) では、生産者の約40%はBtトウモロコシ導入前にはアワノメイガ防除のために殺虫剤はまったく使用しておらず、早植え・早期収穫で対応していた。スイートコーンと異なり、飼料や原料用に使うデントコーンは多少害虫の被害があっても商品になる。殺虫剤を使用せず、早植え・早期収穫による減収分は約15〜20%であり、農薬散布費用を考えて、多くの生産者はこのような選択をしていたのだ。「6月下旬の遅植えでは殺虫剤なしでトウモロコシは栽培できない。害虫抵抗性品種がなければ、この時期にまき直しをしようとは考えなかっただろう」 と生産者は述べている。6月の大洪水の後、天候に恵まれたことが一番であるが、Btトウモロコシの意外なメリットが発揮されたとも言える。

農業用水を節約できる乾燥耐性トウモロコシの商業化は数年先だが、2009年には収量が従来品種より約7〜11%多い新タイプの除草剤 (グリホサート) 耐性ダイズの商業栽培が開始される。また、初のバイオエタノール専用の組換えトウモロコシ(耐熱性αアミラーゼ)も認可される予定だ。「また、トウモロコシとダイズか」、「バイオ燃料に使われて食糧や飼料価格にしわ寄せがいくのではないか?」、「乾燥耐性と言っても、消費者にはメリットが実感できない」 と批判される向きもあるだろう。しかし、生産者がメリットを実感し、需要のあるところに開発資金が投入され、従来の品種育成よりはるかに短い期間で新品種が誕生するという現実を無視することはできないだろう。

おもな参考情報

国際アグリバイオ事業団 (ISAAA) 年次報告書 (No.39)
http://www.isaaa.org/

同 日本語版 (バイテク情報普及会) (2009/2/13)
(対応するページが見つかりません。2012年1月)

Abbott A. (2009) European disarray on transgenic crops. Nature 457: 946-947.(組換え作物を巡るヨーロッパの混乱)(2009/2/19号)

「乾燥耐性トウモロコシの開発、最終段階に達する」 (2009/1/7)
http://news.monsanto.com/press-release/monsanto-takes-major-step-toward-launch-worlds-first-drought-tolerant-corn-product (最新のURLに修正しました。2014年9月)

Pilcher C.D et al. (2002) Biotechnology and the European corn borer: Measuring historical farmer perceptions and adoption of transgenic Bt corn as a pest management strategy. Journal of Economic Entomology 95(5):878-892. (バイオテクノロジーとヨーロッパアワノメイガ:害虫管理戦略としての遺伝子組換えBtトウモロコシに対する農民の認識と受け入れに関するアンケート調査)

(生物多様性研究領域 白井洋一)

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