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情報:農業と環境 No.108 (2009年4月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

第26回土・水研究会 「窒素・リンによる環境負荷の削減に向けた取り組み」 が開催された

平成21年2月25日、農林水産技術会議事務局筑波事務所の農林ホールにおいて、第26回土・水研究会 「窒素・リンによる環境負荷の削減に向けた取り組み」 が開催されました。

この研究会では、1) ヨーロッパ連合 (EU) の農業環境政策におけるクロスコンプライアンスと環境支払の背景と考え方、 2) 「農地・水・環境保全向上対策」 の進捗(しんちょく)状況と今後の展望、 3) 研究機関が実施している最新の研究成果について、政策担当者と研究者の連携を模索する論議が行われました。

なお、参加者数は合計208名、内訳は、地方自治体から93名、大学・民間から27名、独立行政法人研究機関等から49名、そして当研究所からの39名でした。

講演の内容 (全体版 PDFファイル 7.2 MB)

1.開催趣旨:窒素・リンによる環境負荷の削減に向けた取り組み  (PDFファイル 0.3 MB)

菅原和夫 物質循環研究領域長(農業環境技術研究所)から、EUでは農産物の価格を高めに維持して農家を保護する政策から、農家の所得を直接補償する政策へと重点が移ってきており、わが国においても、環境保全型農業に関連した環境支払を実施しているとの紹介がありました。

2.ヨーロッパ連合の農業環境政策:クロスコンプライアンスと環境支払  (PDFファイル 0.7 MB)

荘林幹太郎 氏(学習院女子大学)の講演では、EUの農業環境政策を特徴づけている二つの制度、クロスコンプライアンス(農家の責任)と環境支払(社会の責任)が補完関係にあること、各国は両者の責任範囲を設定するにあたり、地域の歴史や文化に基づいて社会的コンセンサスを得てリファレンスレベル(二つの制度の境界線)を決めていることが紹介されました。

3.琵琶湖集水域における環境負荷低減技術の体系化と環境農業直接支払制度の検証  (PDFファイル 2.7 MB)

柴原藤善 氏(滋賀県農業技術振興センター)の講演では、滋賀県農業技術振興センターが取り組んできた「近畿地域の水稲の環境負荷低減技術の体系化と負荷予測モデルの開発」や「環境こだわり農業環境影響調査事業」の成果の紹介がありました。

4.「農地・水・環境保全向上対策」の進捗状況と今後の展望  (PDFファイル 1.6 MB)

秋山憲孝 氏(農林水産省農村振興局)の講演では、「農地・水・環境保全向上対策」の進捗状況について、とくに地域の環境保全に向けた先進的な営農活動に対する支援が紹介されました。

5.硝酸性窒素の地下水到達時間の面的予測  (PDFファイル 0.9 MB)

加藤英孝 上席研究員(農業環境技術研究所)の講演では、利根川流域内の農耕地を対象として、硝酸イオンが地下水に到達するまでの時間を面的に予測した結果、約0.4〜31年と地域によって大きな差のあることが示されました。

6.土地利用連鎖系における脱窒能の面的評価と水田農業の役割  (PDFファイル 1.3 MB)

今井克彦 氏(愛知県農業総合試験場)の講演では、矢作川左岸の茶園に隣接する水田群で、水田下層の地下水中における脱窒能を調査した結果が報告され、脱窒が局所的に起きていることが示されました。

7.土壌侵食ポテンシャルの広域評価とリンの流出  (PDFファイル 1.5 MB)

神山和則 上席研究員(農業環境技術研究所)の講演では、河川水の全リン濃度は集水域の畑地率との間に一定の関係があるが、土壌侵食ポテンシャルとの間には関係が認められないなど、リン流出を広域的に評価する上での問題点が示されました。

8.豚舎汚水からのリンの除去回収とその利用  (PDFファイル 1.2 MB)

鈴木一好 氏(畜産草地研究所)の講演では、これまで循環再利用されていなかった豚舎汚水からのリンを、リン酸マグネシウムアンモニウムとして除去回収し利用する技術の紹介がありました。

論議の内容

主な質疑について以下に紹介します。

1.EUにおけるリファレンスレベルの考え方

1)イギリスでは生け垣の設置は農家の責任で、その幅によってリファレンスレベルを設定しているが、収益や生産効率が下がるのに生け垣の設置で環境支払が行われないのはなぜか、2)わが国で環境支払を適用できる具体例を示してほしいとの質問・意見が出されました。これに対して荘林氏から、イギリスの伝統的な考え方に基づいて農家の責任としているとの回答があり、滋賀県が実施している「魚のゆりかご水田」が具体例として示されました。また、EUにおいては、生物多様性の保全や景観の改善などに多くの予算が投じられていることも、大変参考になりました。

2.窒素・リンの環境負荷の削減に向けた有機物施用の考え方

農地に有機物を過剰に施用すると窒素・リンによる環境負荷が増大するのではないかとの質問に対して、今井氏や柴原氏から、有機物に含まれる窒素・リンの総量が問題であり、有機物施用の上限を設定する必要があるとの回答がありました。また、柴原氏から、有機農業では米ぬかを水田の雑草防除に利用しているが、落水時に河川汚濁の原因となりうるとの指摘がありました。

3.窒素・リンによる環境負荷を広域的に評価する上での問題点

環境支払のような施策に対する国民の理解を促すためには、汚濁負荷の低減効果を定量的に明らかにする必要があるが、窒素については流出の時間遅れがあって検証が難しいとの意見が出されました。しかし、静岡県の茶園の事例では、窒素施肥量を削減することにより、湧水(ゆうすい)・河川水の水質が改善されてきており、今後も、生産現場における水質の研究を推進する必要があります。

第26回土・水研究会 基調講演(写真)

基調講演

第26回土・水研究会 質疑応答(写真)

質疑応答

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